エンタメ

コメディ作で魅せる宮沢りえ “世間とのズレ”表現した二世議員候補役に「怪演」評も

「決戦は日曜日」劇中写真
(C)2021「決戦は日曜日」製作委員会
写真11枚

窪田正孝(33歳)主演の映画『決戦は日曜日』が1月7日より公開中です。本作は、現代の日本の政界をコメディタッチで描いたもの。若手からベテランまで多彩な俳優らによる軽妙な掛け合いに笑わされ、ときに現実社会を映し出しているようで「ハッ」とさせられる作品に仕上がっています。本作の見どころについて、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

* * *

現実社会の“問題”を軽妙に映し出したブラックコメディ

本作は、映画『東京ウィンドオーケストラ』や『ピンカートンに会いにいく』などを手掛けてきたコメディ映画界の気鋭・坂下雄一郎(35歳)監督による最新作。親の七光りによって“二世候補”として政界に挑む世間知らずな女性と、彼女に振り回される“事なかれ主義”の秘書たちにフォーカスし、選挙戦の裏側を政界への風刺を込めたブラックコメディとして描いています。

「決戦は日曜日」劇中写真
(C)2021「決戦は日曜日」製作委員会
写真11枚

”選挙に落ちること”を目指す二世議員候補

舞台はとある地方都市。この地で多くの支持を集める衆議院議員・川島昌平の私設秘書を務める谷村勉(窪田正孝)は、特別な熱い思いはないものの、何不自由ない家族との暮らしに満足していました。そんなある日、川島が病に倒れ、衆議院も解散。彼の後継候補者として、娘の有美(宮沢りえ)が政界に挑むことに。

谷村は彼女の補佐役として業務にあたりますが、世間知らずで掴みどころのない彼女に振り回される日々を送ることになります。父・川島が得てきた絶大な力によって、有美も当選確実…かと思いきや、政界のさまざまな悪しき慣習に納得できない彼女は、なんと“選挙に落ちること”を谷村に持ちかけるのです。

「決戦は日曜日」劇中写真
(C)2021「決戦は日曜日」製作委員会
写真11枚

秘書たちの”事なかれ主義”はどこかで見たような…

あまりに政治に無知で、世間とズレた感覚の持ち主である有美。彼女が連発する突飛な言動に、思わず笑ってしまう人もがいれば、いくら映画とはいえ閉口してしまう人もいるでしょう。というのも、彼女の言動の多くは私たちが現実社会で目にしたことのある“問題”ばかりなのです。

「決戦は日曜日」劇中写真
(C)2021「決戦は日曜日」製作委員会
写真11枚

明らかに蔑視的な発言をしたかと思えば、それに対して「撤回」を求める批判者たちに差し入れをしてみたり、彼女は完全にズレています。しかし、有美としては何をするにも全力で、その熱意はかなりのもの。ただただ彼女は世間知らずなのです。

そして、それに対する秘書たちの“事なかれ主義”な態度もどこかで見たことのあるものばかり。有美の失態の隠蔽に右往左往するさまは滑稽でつい笑ってしまいますが、彼女と秘書たちの関係の構図は、私たちが日々ニュースなどで目にする現実を反映したものだと言えるでしょう。笑っていいものか、どうなのか。そんなブラックコメディなのです。

ユニークな面々による、肩の力の抜けた演技合戦

現実社会を露骨に反映させた物語が大きな魅力の本作。それを映画作品として成立させているのは、演技巧者たちの掛け合いがあってこそのものだと思います。主演の窪田を筆頭に、若手からベテランまでユニークな面々が集っています。そんな彼らの“肩の力の抜けた演技合戦”も見どころと言えるでしょう。

「決戦は日曜日」劇中写真
(C)2021「決戦は日曜日」製作委員会
写真11枚

”演劇人”のりえが高度なパフォーマンス

政治ド素人の二世候補・有美を演じているのは宮沢りえ(48歳)。熱意が空回りする女性を、ある種パワフルに演じています。「ある種」と記したのは、やはりその“パワフルさ”がポジティブなものばかりではないからです。人にはそれぞれのさまざまな事情があるわけですが、彼女はそれが理解できない。

だからこそ、良くも悪くも世間とのズレが生じてしまいます。宮沢はこの“ズレ”を、身振り手振りと大仰なセリフ回しで表現。多くの舞台に立ってきた“演劇人”としての顔も持つ彼女が、高度なパフォーマンスで魅せてくれます。

「決戦は日曜日」劇中写真
(C)2021「決戦は日曜日」製作委員会
写真11枚

また、ナレーション業も多く務めてきた宮沢の声の表現力にも定評があるだけあって、有美が報道陣の前で「各々」を「かくかく」と読むシーンなどは、その美しい抑揚のつけかたも相まって、“怪演”と呼べるものかもしれません。

「決戦は日曜日」劇中写真
(C)2021「決戦は日曜日」製作委員会
写真11枚

秘書たちとの掛け合いがコミカルで笑える

この有美の突飛な言動の数々を受け止めるのが、窪田演じる谷村をはじめとした秘書勢。赤楚衛二(27歳)、内田慈(38歳)、小市慢太郎(52歳)、音尾琢真(45歳)ら扮する秘書たちは、有美に翻弄される日々を送ることになりますが、親の七光りで政界へと挑もうと熱弁を振るう彼女を内心バカにしています。誰もが誠実さとはかけ離れた態度で職務にあたるため、その演技は非常に肩の力の抜けたもの。

「決戦は日曜日」劇中写真
(C)2021「決戦は日曜日」製作委員会
写真11枚

彼らの掛け合いもコミカルで笑いが込み上げてきますが、やはり一番の見ものは有美を演じる宮沢との掛け合いです。熱のこもった演技と脱力した演技、両者が展開する奇妙な演技合戦が本作の魅力の肝と言えるでしょう。

関連キーワード