考えざるを得なくなる、「私たちはどうすべきか?」
本作のジャンルを一言で言うならば、やはり「コメディ」でしょう。熱意だけあって中身がなく空回りする二世候補と、やる気の希薄な秘書たちの攻防には笑える要素が散りばめられています。しかし本作のテーマは、私たちの社会の中にある問題。劇中で展開する物語がスクリーンの向こう側の世界のことだと分かっているからこそ笑ってしまうのであって、現実社会の問題の多くは笑えるものばかりではありません。
谷村も内心では有美をバカにし、振り回されながらも“事なかれ主義”を通そうとする存在です。しかし、そんな彼に有美は“選挙に落ちる”というとんでもないことを提案します。これは現在の政界への彼女なりの反抗。そこで谷村が彼女に対し、どんな向き合い方をするのかは映画を観てのお楽しみですが、この後の展開こそが、本作の訴えようとしている主題なのだと思います。それはつまり、「私たちはどうすべきか?」ということです。
見て見ぬ振りをするのか、忖度するのか…
多くの人々が現在の政治に振り回され、不満を抱えているのではないでしょうか。街へ出ても、SNSを開いてみても、そんな声で溢れています。そこで私たちは、どうすべきなのでしょうか。谷村は、議員秘書という極めて政治に近い立ち位置で、自分なりの選択をします。私たちには一人ひとりの異なる立ち位置があり、取れる選択も行動もそれぞれ違う。見て見ぬ振りをするのか、無関心でいるのか、忖度するのか、ただ不満をもらすだけでいるのか…。
コメディでありながらもシビアな現実を捉えた作品に、観客はつい考えさせられてしまう、そんな魅力を秘めた作品だと感じました。
◆文筆家・折田侑駿
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk