
皮肉を言う夫にイライラしてしまう…こんな夫、なんとなかないものでしょうか。そんな悩みにベストセラー『夫のトリセツ』(講談社)の著者で脳科学・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんは「皮肉屋夫は家の守り神かも?」といいます。いったいなぜでしょう? その理由と皮肉屋な夫との関係を円満にする秘訣を黒川さんに教えていただきました。
【相談】
私がテレビを見ていると、横で「このタレントは可愛くない」「この程度でテレビに出られるのか」「料理の手際が悪すぎ」と出演者のことを上から目線で悪く言うなどネガティブなことをつぶやいているので、聞いているだけで嫌になります。こんな夫の性格といいますか、態度を直すことはできますか。(51才・アルバイト)
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ポジティブ脳の女性には皮肉屋夫がいるもの?
直せるかという質問には、残念ながら、NOです。直すことはできません。
そもそも、これって、完全悪じゃない。困った性格にも、その裏に、必ず才覚が隠れています。仮に直せたとしたら、彼の才覚も消えてしまうでしょう。
さらに、人類繁栄のために、男女は感性真逆の相手に惚れます。優しい女性は、皮肉屋の男性に惚れている可能性高し。つまり、どの妻にとっても、夫とは「困った夫」なのです。
「性格を直す」という言い方は、フェアではありません。
世間では、ポジティブな人が正しくて、ネガティブな人はダメなように言われがちですが、「人類というシステム」からいえば、どちらも存在価値があり、共存することが人類繁栄の大きな鍵となっているからです。

例えば、集落が襲撃を受けたとき、「前向きに闘う人」「前向きに新天地を求めて船出する人」だけでは、いずれも全滅のリスクをはらんでいます。「落ち込んで、無気力に従う人」「恨んで、ねちっこく復讐の機会を狙う人」もいることで、しつこく遺伝子を残すことができる。
人類の歴史を見れば、「明るく前向きで、優しく公平な脳」だけが生き残ってきたわけではないこと、いやむしろ生存可能性は低いと言っていいかもしれないことを、誰でも知っているはずです。
人類は、ネガティブ脳とポジティブ脳のミックスででき上がっている。そして、これを未来永劫キープするために、男女は、感性の違う相手に惚れやすい。これが人類の原則です。
というわけで、優しいポジティブ脳の女性には、高い確率で、皮肉屋の夫がいるもの。でもね、恋愛の最初には、その言動がクールで素敵に見えたのでは?
皮肉屋夫は家の守り神かも?
皮肉な見方をする人は、家族の気持ちを下げる嫌な奴ですが、一方で、慎重で、無駄なことにお金を使わない傾向にあり、その意味では家族を守っていると言えるかもしれません。
人のいいところばかりを見る男性は、優しくて気前がいいことが多く、一緒にいて楽しいけれど、貯金は残せないことが多いはず(脳の神経構造上の予測)。
質問者の夫に、何かいいところがあるとするならば、それが、皮肉屋であることと、脳の中で密接に結びついているはずです。仮に、脳神経信号を操作して、皮肉屋の性質を消してしまうことができたとしたら、いつくかの美点が消えて、もっと厄介な夫に変わるかも。
皮肉屋の性格を全否定して、直らないものかと考えるのは、時間の無駄です。

対応策は「嫌なことは嫌と言う」「別々の居場所をキープする」
とはいえ、我慢できなかったら、2つの対応を取ります。
まずは、「私、最近、人の悪口を聞くのがつらいの。なんか、気持ちが落ちちゃうから。更年期かなぁ。悪いけど、これから、私には言わないでね」と丁寧に説明する。甘える風情が出せると◎です。
男性脳は「一を聞いて十を知る」が不可能なので、一つの事例だけでは不十分。きっと何度も言うことになりますが、イラついたりしないで、優しく言い続けましょう。
それと、夫婦それぞれの居場所を作って、別々に過ごす習慣を作るのも大事です。今や、テレビは携帯電話でだって見られる時代、なにも2人で見なくたっていいのでは?
大局的に言えば、人類繁栄の仕組みのせいで、この世のすべての夫に、妻から見れば、嫌なところ、困ったところが必ずあります。それが「テレビタレントの悪口」程度なら、おしあわせな気がします。
理系男子はビビりでぼんやり
「うちの子、ビビりで困っちゃう」「こんなにぼんやりして、頭が悪いのかしら」という悩みもよく聞きます。けど、その度に、私は「理系の天才かもよ」と答えます。
あるとき、双子の男の子のママから、「片方はビビりでブランコにも乗れないのに、もう片方は積極的になんにでも挑戦する。この子のビビりを何とかしたい」と相談を受けました。
2人とも6歳でした。積極的な子は、明るくてイケメンでキラキラしていました。ビビりと言われた子は、ほんわかした男の子ではにかむ姿がなんともキュート。二卵性の双子ちゃんだそうで、同時に異なる個性の息子たちを手にしているママを、私はうらやましくなりました。
私は、「そのまま、放っておけば? ビビりな子は、集中力を作り出すホルモン=ノルアドレナリンの分泌がいい可能性が高い。将来、理系の成績がいいかもよ。そもそも、積極派と慎重派、2人の息子がいたら、安心じゃないの」と答えました。

10年後、ばったり会ったそのママが、満面の笑みを浮かべてこう言いました。
「あの子、あなたの予想通り、めちゃ成績いのよ。特に、数学が得意で」
「ぼんやり」も、理系男子に共通の特性です。空間認知力を進化させるとき、ぼんやりしてしまうからです。五感から入ってくる感覚情報を遮断して、脳の世界観を書き換えるから。
幼い息子が「ビビりで、ぼんやり」だと、母親は心配になって、つい直そうと躍起になってしまうものですが、直してしまったら、理系の能力は確実に落ちます。おおらかに見守ってあげてほしいなと思います。
ビビりを隠すために、皮肉屋に?
ちなみに、ノルアドレナリンは、脳神経信号を抑制するホルモン。いわば、脳のブレーキ役です。
脳にはセロトニンやドーパミンのように、脳神経信号を促進して、脳を活性化するホルモンもあります。アクセル役ですね。このアクセル役が働くと、脳は好奇心であふれ、「あれ、どうなってるの?」「あれが欲しい!」と走り出します。
しかしながら、アクセル役ばかりだと、多動傾向に。「あれ、どうなってるの?」「これ、も気になる」「えっ、それは?」みたいに、気が散って、1つのテーマに集中できないからです。
これらを抑制して、最初のテーマに集中させてくれるのがノルアドレナリンです。ノルアドレナリンは、アクセル役のホルモンと連動して、集中力を作り出す立役者。脳の学習能力に大きく貢献しています。ただし、ブレーキ役ですから、多めに分泌すると、「ビビりで消極的」に見えるのです。
脳の機能性を追求していくと、この世にダメなだけの脳は存在しないのがわかります。
相談者の夫も、もしかすると、ビビりタイプなのかもしれないですね。
ビビり屋さんは、母親にその性質をおおらかに見守ってもらえないと、自分のビビりを隠すために、人の欠点をあげつらう皮肉屋に育ってしまうこともあるからです。
大人の性格は直せないので、対処法しかありませんが、子どもの性格は、母親が何とかできます。
「欠点に見える言動」を、絶対悪だと決めつけないセンス。夫に優しくなるためにも有効ですが、子育てには不可欠な気がします。
◆教えてくれたのは:脳科学・人工知能(AI)研究者・黒川伊保子さん

株式会社 感性リサーチ代表取締役社長。人工知能研究者、随筆家、日本ネーミング協会理事、日本文藝家協会会員。人工知能(自然言語解析、ブレイン・サイバネティクス)、コミュニケーション・サイエンス、ネーミング分析が専門。コンピューターメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳と言葉の研究を始める。1991年には、当時の大型機では世界初と言われたコンピューターの日本語対話に成功。このとき、対話文脈に男女の違いがあることを発見。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。2018年には『妻のトリセツ』(講談社)がベストセラーに。以後、『夫のトリセツ』(講談社)、『娘のトリセツ』(小学館)、『息子のトリセツ』(扶桑社)など数多くのトリセツシリーズを出版。http://ihoko.com/
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