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Koki,が初主演作で挑戦した“一人二役” 「演技未経験」への不安を払拭する演技力

「牛首村」
Koki,が映画デビュー(C)2022「牛首村」製作委員会
写真7枚

モデルのKoki,(19歳)が女優デビュー作にして主演を果たした映画『牛首村』が公開中です。本作は、とある村の秘密の解明に若者たちが挑み、やがて恐怖のどん底に引きずり込まれていくさまを描いたホラー映画。恐ろしい描写の数々はもちろんのこと、木村拓哉(49歳)と工藤静香(51歳)を両親に持つKoki,が初演技ながらも一人二役に挑戦し、見応えのある作品に仕上がっています。本作の見どころについて、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。

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実在の心霊スポットを舞台に前作を上回る「恐怖」を展開

本作は、映画『呪怨』や『輪廻』など、数々のホラー映画を手掛けてきた清水崇監督(49歳)による最新作で、実在する心霊スポットにフォーカスした「恐怖の村」シリーズの第3弾となるもの。九州を舞台にした『犬鳴村』、富士の『樹海村』に続く、いや、それらを上回るホラー映画となっています。

今回舞台となったのは、北陸地方「最凶の心霊スポット」と言われる「坪野鉱泉」。ある心霊動画を見て、自分と瓜二つの女子高生が映っているのを目にして驚愕する雨宮奏音(Koki,)。その動画の少女は、同級生たちから強引に“牛首マスク”を被せられ、廃墟内のエレベーターに閉じ込められてしまいます。

「牛首村」
(C)2022「牛首村」製作委員会
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完全創作のホラー映画とは一味違う

そこで映像は途切れているのですが、胸騒ぎを覚えた奏音の周りでは奇妙な現象が起こり、何か大きな力に導かれるようにして、彼女は撮影地である坪野鉱泉へと向かうのです。やがて奏音は自分に双子の妹がいること、そして「牛首村」というおぞましい村の秘密に迫っていくこととなります。

「牛首村」
(C)2022「牛首村」製作委員会
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富山にある坪野鉱泉は、知る人ぞ知る心霊スポット。実在する場所を舞台にしているとあって、やはり完全創作のホラー映画とは一味違います。この場所を知っている人にとっては、映画が与える恐怖以前に、個々の中にあらかじめ恐怖心が存在している点で、また特別な楽しみがいのある作品ではないでしょうか。

とはいえ、もちろん本作では、心霊スポットに関する知識は一切不要。Koki,扮する奏音らとともに坪野鉱泉を訪れれば、恐怖を堪能できる内容となっています。スクリーン上に“映ってはいけない何か”を見つけることができるかもしれません。

Koki,が演じる一人二役、さじ加減まで絶妙

『犬鳴村』では三吉彩花(25歳)や坂東龍汰(24歳)、『樹海村』では山田杏奈(21歳)に山口まゆ(21歳)、神尾楓珠(23歳)ら注目の若手俳優を主要キャラクターに起用してきた本シリーズ。今作も例外ではなく、主演のKoki,を筆頭に、萩原利久(23歳)、高橋文哉(21歳)、芋生悠(24歳)といった次代を担う若手俳優陣が集い、健闘しています。

人気シリーズの主演として、演技未経験のKoki,を起用したことに不安を感じる人は少なからずいるのではないかと思います。しかしそれは、冒頭の数分で杞憂に終わるでしょう。本作で彼女が挑むのは、東京で生活する奏音と、ある理由で奏音と生き別れてしまった妹・詩音の“一人二役”。2人は異なる環境で育ってきたこともあり、タイプも異なります。

「牛首村」
(C)2022「牛首村」製作委員会
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萩原利久、高橋文哉ら次代を担う若手俳優陣が健闘

Koki,はこの二役を見事に演じ分けているのです。それは一見同じようでいて、全然違う。このさじ加減まで絶妙です。ホラー映画なので登場人物が恐怖に慄くシーンが多いわけですが、彼女の姿を介することで、より本作の恐怖を体感できることでしょう。

萩原利久と高橋文哉が扮するのは、奏音とともに「牛首村」と呼ばれる場所の秘密に迫る高校生。ときにシリアスに、またときにはユーモラスに、彼らが本作の展開を盛り上げています。まだ若い2人ですが、萩原は幼少期からキャリアをスタートさせた俳優で、高橋はドラマ『最愛』(TBS系)や『ドクターホワイト』(カンテレ・フジテレビ系)と話題作への出演が続く人気俳優。Koki,の好演には、彼らの存在も大きく影響しているはずです。

さらに、芋生悠の演技が本作のクオリティを底上げしている印象があります。公式ホームページでは「謎の女」ということ以外は明かされていないため詳細を述べることは控えますが、彼女こそが「牛首村」のおぞましい秘密に関わっている重要な存在を演じているのです。

本作が訴える“負の感情”の存在を知る重要性

本シリーズだけでなく、多くのホラー作品で共通して描かれるのが、恐ろしい心霊現象が起きる背景や根源にあるものが、怒りや悲しみ、つまり“負の感情”とされるもの。この感情が強ければ強いほど大きな力を生み出し、それが悲劇を呼びます。ネガティブなエネルギーは、他に影響を与えずにはいられないのです。私たち自身、心当たりがないでしょうか。

「牛首村」
(C)2022「牛首村」製作委員会
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”ただ怖いだけ”ではない作品の魅力

本作『牛首村』にも強烈な“負の感情”が充満しています。かつて存在した「牛首村」には恐ろしい風習があり、その風習によって犠牲となり苦しんだ者たちのネガティブなエネルギーが、時を超えて現代へと影響を与えているのです。この風習は本作のために創作されたものですが、日本には実際に、生活を守るため“口減らし”などの悲しき風習が数多く存在しました。犠牲となった人々の想いがその土地にとどまることは当然だと思います。

「牛首村」
(C)2022「牛首村」製作委員会
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犠牲になってしまった人々の想いは、いったいどこへ行くのかーー。本作は実在する場所を舞台としたフィクションですが、埋もれてしまった、あるいは隠されてしまった過去を知ることの重要性を描いているようにも思いました。本作を見た後は、“ただ怖いだけ” ではない作品の魅力を感じられることでしょう。

◆文筆家・折田侑駿

折田優駿さん
文筆家・折田侑駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。http://twitter.com/cinema_walk

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