春は、卒業と同時に新たな旅立ちを迎える季節でもあります。別れの切なさに涙し、出会いの期待に胸を膨らませたあの頃の思い出を彩るのは、時代を経ても色褪せない名曲の数々。1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライターの田中稲さんが、時代と共に変遷した「旅立ちの歌」のトレンドを振り返ります。
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アイドルの魅力がほとばしる1980年代
卒業、もしくは旅立ちを思わせるこのシーズン、自然と頭の中で流れる歌がある。私は小学校高学年のとき『3年B組金八先生』が放送されていた世代なので、『贈る言葉』を無意識に口ずさんでしまう。もしくは小学校のお別れ会、クラスみんなで歌った『ペガサスの朝』(1980年)という五十嵐浩晃さんの歌。あの歌を聴くと懐かしくて鼻の奥がツーンとする!
私のペガサスな思い出はさておき、1980年代は特に歌謡ポップス全盛期。卒業シーンを彩る名曲がそりゃもう多い。
松田聖子さんの『赤いスイートピー』のB面だった『制服』は友人から教えてもらい、大感動した1曲である。卒業の寂しさを甘酸っぱく感じるとともに、「B面にも名曲あり」ということを強く意識した。
おニャン子クラブの『じゃあね』も印象的だった。メンバーの中島美春さんのグループ卒業を送る歌として作られたそうだが、さようならでなく「じゃあね」という言葉が、なんとも軽やかで素敵だった。
しかしなんといっても特筆すべきは、菊池桃子さんの『卒業-GRADUATION-』である。必死で耳を澄ませたくなる、ため息のような桃子ボイス! セーラー服でなく、あえてブレザー制服を思わせる佇まい。
パーフェクトな優等生オーラを輝かせ、彼女が囁くように歌う「サン・テグジュペリ」というミステリアス・ワードは萌えた。発売当時は何かの呪文かと思っていたが、『星の王子様』の著者だと分かったときの興奮たるや。本のタイトルでなく作家名で入れてくるなんて、なんともインテリジェンス! 今聴いても心洗われる、エバーグリーンな卒業ソングだ。