ライフ

専業主婦からドムドム社長になった藤崎忍さん「主婦のマルチタスク実行力は仕事にも生きる」

専業主婦時代は人に尽くせる心を育ててもらった時間

経営やマーケティングを体系的に学んだわけではないのに、迷走することなく理にかなった行動に行き着いた理由を、藤崎さんはこう話す。

「普通のことなんですよ。家庭の主婦だって、とんでもないマルチタスクをこなしています。誰に習わなくても、合理的にやるべきことをやっている。夫の帰宅時間から逆算して食事の準備をして、その前にあれとこれをって。家族に心を尽くすのも、仕事に心を尽くすのも同じこと。だから、今思えば専業主婦時代って私にとっては、人に尽くせる心を育ててもらった時間だった気がします」

藤崎忍さん
専業主婦の頃の経験が仕事にも生きているという
写真6枚

結婚や出産、あるいは介護などを機に退職や休職を選択することに社会から離脱するような不安を感じる人も世の中には少なくないが、「そんなふうに不安を抱えなくてもいいと思います」と藤崎さんは言う。

「確かに、会社で働き続けることで鍛えられていくスキルはあるし、成長もあると思いますが、家庭でマルチタスクをこなしながら家族が健やかでいられるように愛情をそそぐことで人として成長できるはず。成長した心を持って、また仕事に復帰すればいいと思います。こっちはこっち、あっちはあっちじゃなくて、全てはつながっているんです」

物事のポジティブな側面に目を向ける

アパレルショップの売り上げは藤崎さんが店長を務めた5年の間に2倍近くまで拡大。しかし、オーナーの経営方針変更により、退職することに。次なる仕事を藤崎さんは飲食業に求めた。最初は新橋の居酒屋で時給1200円のアルバイトを。バイト生活5か月目には独立を決意し、3~4か月の準備期間を経て2011年5月、自身がオーナーの居酒屋を開業した。

藤崎さんは「自分の置かれた環境や得意なこと、できないことを整理した結果、飲食業を選びました」と振り返る。

「当時44歳で、これから新入社員になって、Excelもほとんど使えない英語も話せない私が、家族を養えるだけのお給料を会社からいただけるのかと考えると、それは不可能。だったら、長年やってきた家庭料理の腕を生かして起業するほうが収入は得られると考えたんです」

藤崎忍さん
「失敗って、もともとない」と言い切る藤崎さん
写真6枚

とはいえ、まとまった額の融資を受けることや、組織に属さずに一人でやっていくことに不安を抱いたり、“失敗したらどうしよう”とひるんだりする気持ちはなかったのだろうか。

「失敗って、もともとないんですよ。例えば、アパレル時代に主人が再び脳梗塞で倒れたのですが、その日も病院へ行って診断結果を待って、その後に会社に行きました。次の日の朝はまた病院に寄ってから会社へ行く。そうまでして働いて、いつかその会社の社長になれると思っていたんですが、それは叶いませんでした。退職の際は、それはつらい思いをしました。

ただ、最後にそうなったからといって、あそこで働いた日々を丸ごと失敗と捉えるのは違うと思うんです。だって、他では知り合えなかったであろう若い女の子たちと仲良く仕事ができて絆も生まれましたし、商売というものも非常に面白くて勉強になりました。

私は何事もプラスになったことのほうが心に残る。心に残すようにしてきたのかもしれません。もちろん、自分にミスがあれば反省すべきですが、自分の能力や言動と関わりのないところで決まってしまうものもありますよね。例えば『なぜ主人は倒れてしまったんだろう』『なぜ左半身にマヒが』『あんなに幸せだったのに』と思ったところでどうにもならない。幸せだったなら、あんなに幸せな日々を共に過ごしたこの人を今、一生懸命支えようと思うだけ。

それに、物事って必ず正負の両面があると思うんです。主人が倒れたことは本当に残念で胸が苦しくなりましたが、別の一面を見れば、私はそれがきっかけで社会に出られたとも言えるわけです。私はそういうところに目を向けたい。アパレル店も業績は上がりました、ただ事情が変わって私は会社を離れることになりました。ならそれは失敗じゃないんです。経験や友人を得られてよかったと思って次に進む。挑戦する。失敗なんかないって、そういう意味です」

開店した居酒屋は、客の気分に合わせた藤崎さん流のおもてなしと、赤ウインナーや卵焼きなどのシンプルながら心安らぐ料理がウケてまさに大成功。開店1年半で1号店の隣に2号店を出すまでに。洋風居酒屋にした2号店は、ピザやタパスなども投入し、幅広い客層から支持を集めることに成功した。

【第2回に続く】

◆ドムドムフードサービス代表取締役・藤崎忍さん

藤崎忍さん
新業態ツリーアンドツリーズの前にたたずむ藤崎さん
写真6枚

ふじさき・しのぶ。1966年生まれ。2017年11月、株式会社レンブラントインベストメントに入社し、株式会社ドムドムフードサービスに出向。翌年8月にドムドムフードサービス代表取締役に就任し、これまで培ってきた関係力をフルに発揮し、業績を順調に回復させる。ドムドムは1990年代、全国400店舗まで拡大したが、2017年にレンブラントホールディングスに事業譲渡され、現在はドムドムハンバーガー27店舗、新業態ツリーアンドツリーズ1店舗。著書に『ドムドムの逆襲 39歳まで主婦だった私の「思いやり」経営戦略』(ダイヤモンド社)、『藤崎流 関係力: 成功に導く対人の心得』(repicbook)がある。@dom_fujisaki

※藤崎の崎は「たつさき」が正式表記

撮影/小山志麻 取材・文/赤坂麻実

●【大塚寧々 ネネノクラシ#19】三浦まで行ってタコをゲット!家族でたこ焼きだ

●大下容子アナ、連日の生放送を支える体調管理術 50歳を機に「1日1食」に

関連キーワード