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『悪女(わる)』は30年経てどう変わったか 令和版の今田美桜は「褒め上手」、平成版の石田ひかりは「ラスボス」

平成版の石田ひかりとは全く違うキャラクターに(Ph/日本テレビ提供)
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野心満々の平成版、褒め上手な令和版

石田ひかりさんが演じた平成版の麻理鈴は野心が高めだった。一言で言うと「タフ」! 就業中に煙草をぷかぷか吸うし、「私は会社を動かす方に回りたいですね」と秘書課の課長にケロッと言うし。バブルの余韻も乗っかり、タイトル通り「悪女(わる)」の素質抜群、パンチの利いた設定だった。

石田ひかり、堺正章
石田ひかりは『悪女(わる)』出演後、朝ドラにも抜擢。その年のNHK紅白歌合戦の司会に(写真は1992年、Ph/KYODO)
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そこに石田ひかりさん自身が持つ人生3回目くらいの落ち着いた雰囲気も相まって、キャラクターが底光りしている感じ。頑固な信念と静かに燃える野心が見え、いじめにもなんら動じないその姿はラスボス感さえ漂っていた。このドラマの印象が強烈で、私の中の石田ひかり像はいまだに「不屈の人」である。

一方、現在放送中、令和版の今田美桜さん演じる麻理鈴はラスボス感や野心も薄め、平成版より10倍くらい無邪気だ。初対面から「オイオイすごいの入ってきたな!」とツッコみたくなるほど、ポンコツさ大全開。おかっぱ頭、「ズサー!」という横滑り、職場でギャン泣き、ラフにもほどがある通勤ファッション。何もかも初めてで、見るもの触るものすべて楽しい感に溢れ、とても素直であっけらかんとしている。

そんな彼女の最大の武器は褒め力。各部署で感動し、褒める。そして褒められた人が、自分の仕事の重要性ややり方に改めて気づき、誇りを持つという展開だ。このあたりは世間全体の肯定力が下がっている令和の時代が色濃くうかがえる。

平成版が麻理鈴のサクセスストーリーとすれば、令和版は肯定の達人・麻理鈴が促す大企業の働き方進化物語。1話ごとに1部署紹介、メインゲストあり、というのも社会見学ツアー的で面白い。

平成版が放送された1992年前後は『東京ラブストーリー』や『素顔のままで』など、トレンディドラマを中心にドラマ大豊作の時期。『悪女(わる)』はビッグヒットというほどではなかった。しかし今回のリメイクで、このドラマの感動が、多くの人の中にボディブローの如くジンジン残っていたことを再確認。リメイクのニュースを見たとき、「君〜に〜ありがとう〜……」と自然と主題歌『Thank you My Girl』(Rabbit)が口から出てしまった人も多いのではなかろうか。かくいう私もその一人だ。

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