「乾燥しがちな大人の肌には、化粧水などで保湿するのがベスト」という話を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。高価な化粧品でなくとも、手頃な価格の化粧水を惜しげもなく使うことがすすめられたりもします。しかし、『「コロナ老け知らず」女医の美肌習慣』(双葉社)の著書がある形成外科医・皮膚科医の石井美夏さん(63歳)に聞くと、「大人の肌に、たっぷり保湿は不必要」とバッサリ。石井さん自身、必要充分・最低限のスキンケアを実践し、肌の調子がいいといいます。そのメソッドを教えてもらいました。
「過剰な保湿」をやめれば肌が若返る?
「皮膚は、ツヤッとした滑らかな部分の『表皮』と、その下の、弾力を担っている『表皮』の2種類で構成されています。そして、表皮の最下層と真皮の境目にあるのが『基底細胞』で、これはいわば肌の素です。この肌の素は2つに細胞分裂し、1つは細胞分裂を繰り返しながら表皮の上へ移動します。4〜6週間後に肌、つまり角質層となり、やがて垢となって剥がれていきます。
もう1つは基底細胞にとどまり、自ら分裂して新たな『肌の素』を再生産し、細胞の数が常に一定になるように働きます。これこそ、生体恒常性、ホメオスタシスの好例です」(石井さん・以下同)
保湿のしすぎがよくない理由
こうした機能が備わっている皮膚にとって、なぜ保湿のしすぎがよくないのでしょうか。
「実は私たちの皮膚は、古くなった角質層の細胞が壊れると、天然保湿因子(NMF=アミノ酸)などが出て、表面がしっとりするように仕組まれています。
このNMF分泌をきっかけに、角質脱落のシグナルが基底細胞に伝えられ、細胞分裂が活性化されます。かくして、皮膚の新陳代謝が進んでいく……のですが、肌が保湿されすぎていると、すでにしっとりしているため、たとえ角質が剥がれても、基底細胞への信号が送られにくくなってしまいます。
基底細胞は分裂という名の『肌の素作り』をすっかり怠けるようになってしまい、その結果、ターンオーバーが遅れ、肌がくすんでいきます。顔の表面に常に古い細胞を貼り付かせることにもなり、老化も着実に進行していきます」
石井さんは、患者さんに保湿剤の「規定量の半分」の使用を推奨しています。
「20年の試行錯誤の末、たどり着いた結論です。お肌がみずから作り出している優秀な皮脂膜を大切にし、足りない分は化粧品の力を借りる。季節や体調で増減しても、規定量の5分の4が最大と考えてください。肌をしっとりさせすぎると、見た目も活力も衰えます」