
言葉は言い方ひとつでプラスにもマイナスにもなります。よかれと相手の間違いや失敗を指摘しても、言いかた次第では傷つけてしまうことも…。『「ふつうの人」を「品のいい人」に変える 一流の言いかえ』(光文社)を上梓したマナースクール代表の諏内えみさんに、相手を傷つけない言い方の工夫を教わりました。
相手を傷つけない、周囲に迷惑をかけない言い方
貸していたものを返してもらいたい、自分の指定席に他人が座っている、という状況になることがあるのではないでしょうか。自分が悪いわけではないのに、相手に言いづらいものです。相手を傷つけない品のいい言葉とは。
「相手の間違いや失敗を指摘する場合に大切なのは、直接的な言葉を使わないことです。“もしかしたら”“私も間違っているかもしれないけど”“いま気づいたのだけど”とクッション言葉を添えることで、相手の羞恥心を最低限に抑えることができます」(諏内さん・以下同)

ケース1|返却の催促をする場合
貸したものがなかなか返ってこないとき、催促すると相手に悪いような気になります。しかし、そんな気持ちを言葉にしてはいけません。
◆「あの、言いにくいのですが…、先日お貸しした本、もう返してもらえますか?」→【品のいい言いかえ】「先日、○○の本をお貸ししたのって□□さんでしたっけ?」
「“申し上げにくいのですが…”と切り出すと相手は恐縮してしまい、すまなそうなお詫びの言葉が返ってきたとしても、気まずい雰囲気になってしまうこともあります。そんな場合はたった今思い出したような伝え方をすると、根に持っているイメージを与えないので、相手にプレッシャーを感じさせません」

ケース2|座席を間違われていた場合
新幹線や飛行機、劇場などで指定席を探すときに、しばしば起こるのが、自分の席に他人が座っている状況。なんと声をかけるのが正解なのでしょうか。
◆「ここ、私の席なんですけど」→【品のいい言いかえ】「すみません、失礼ですが何番のチケットをお持ちですか?」
「いきなり“ここは私の席だ”と責めるような口調をしては、品位を損ねてしまいます。“番号をお確かめいただけませんか?”と、おおらかな気持ちでお声がけしましょう。逆に自分が間違えて座っていた場合は、“失礼いたしました”とお詫びしてから移動してください。バツが悪いからと、黙って逃げるように立ち去るのはNGです」

ケース3|ファスナーの閉め忘れを指摘する場合
相手のスカートやワンピースのファスナーが開いていることに気づいたとき、恥をかかせてしまうのでは、と指摘することを躊躇することがあります。相手の方のためにも、気遣いある言葉で伝えてあげましょう。
◆「あ、背中のファスナーが開いてますよ」→【品のいい言いかえ】「もしかしたら、ファスナーがちゃんと閉まっていないかも…?」
「直接的な“開いている”よりも“閉まっていない”という表現を。また、“見間違いかもしれませんが”という言葉を添えることで、“あまりわかりませんよ”“他のかたは気づかなかったかも”というニュアンスを込めることができます。周囲に人がいる場合には、小声でそっと→周囲に聞こえないように伝えたり、“私もこの間やっちゃったんですよ”と失敗談を話せると、相手の羞恥心も軽減されるでしょう」

コロナ禍で表面化した「言葉使い」の巧拙
コロナ禍でマスクが当たり前になると表情が隠れ、オンラインでは体の動きが見えづらくなりました。また、外出を控えることでメールでのやりとりも増えました。すると、会話でも文面でも言葉使いがフォーカスされることになり、マナー講師の諏内さんのもとにたくさんの相談が寄せられたといいます。
「品のいい言葉の置き換えを求められたので、著書でビフォー・アフターとしてわかりやすく提示することにしました。なんと言っていいのかわからないからと沈黙したり口ごもるのではなく、発言しにくいことでも毅然と品のよい返しをすると、角が立たずいい人間関係を築けます」
◆教えてくれたのは:マナースクール ライビウム代表・諏内えみさん

結果を出すマナースクール 「ライビウム」、難関幼稚園や名門小学校の高合格率「親子・お受験作法教室」代表。オンラインレッスンから、レストランでのテーブルマナーや個別レッスンも受けられる講座「Class the SUNAI」が人気。「やんごとなき一族」を始めドラマや映画での女優のエレガント所作指導に定評がある。「世界一受けたい授業」「ホンマでっか!?TV」「王様のブランチ」などテレビでも活躍中。 “品のいい伝え方”がテーマの新刊『「ふつうの人」を「品のいい人」に変える 一流の言いかえ』(光文社) など著書多数。
取材・文/小山内麗香