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71歳のドラマスタイリスト西ゆり子さんが語る自分らしく生きるコツ「固定観念にとらわれない」「執着を捨てる」

水色の服を着た西ゆり子さん
仕事と子育てを両立させてきた西さんの生き方についてインタビュー!
写真7枚

『セカンドバージン』の鈴木京香、『家売るオンナの逆襲』の北川景子などの衣装を手がけ、ドラマスタイリストとして道を切り開いてきた西ゆり子さん(71歳)。早朝から深夜までかかることも多い仕事のかたわら、夫と共に3人の子供を育て上げた主婦の顔ももっています。著書『ドラマスタイリスト西ゆり子の 服を変えれば、人生が変わる』(主婦と生活社)でも紹介されている西さんの生き方について、インタビューでさらに深掘り。子育てや家族に対するスタンス、執着しない生き方は充実した人生へのヒントになりそうです。【全5回の第2回】

→西ゆり子さんインタビュー第1回はコチラ

24歳で夢をかなえ、パイオニアとして走り続けている

子供の頃からファッションに興味をもち、24歳で念願のスタイリストになった西さんは、雑誌や広告の仕事で腕を磨き、30代後半からテレビに軸足を移す。『なるほど!ザ・ワールド』の楠田枝里子の衣装を担当するなどバラエティ番組で評判となったのち、40代でドラマスタイリストになり、さらに仕事にのめり込んでいく。そんなドラマの現場ではハイブランド衣装の借用を実現するなど、業界の最前線を走り続けている。

西さんのキャリアの裏には、まずはなんでも「はい!」と答え、常にチャレンジする姿勢や逆境を楽しむ精神がある。

仕事と子育てを両立させた、固定観念にとらわれない考え方

「仕事も、結婚も子育てもするのが理想の生き方だった」という西さんは、多忙な仕事のかたわら、結婚した30歳で長男、34歳次男、37歳のときに3男を出産。ムービーカメラマンをしていた夫が、当時の男性としてはめずらしく全面的にサポートしてくれたそうだが、仕事との両立は並大抵のことではなかったはずだ。

西さんと旦那さん、2人の息子
30代の頃の西さんと家族
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「『お子さんを3人持って、お仕事をして、すっごいパワフルですね』ってよく言われるのよ。でも、できることをできる範囲でやろうと思ったから、やってる本人には普通なの。例えば撮影が深夜に及んだときは、朝起きてお弁当を作るなんて絶対できない。でも、お昼に間に合うように作って、子供の学校のげた箱にお弁当を入れたらいい。どうしたらできるかを考えてやっていただけですよ」

“お弁当は朝持たせるもの”という固定観念にとらわれなかったからこそ、西さんは子供たち3人のお弁当作りを続けることができた。“こうしなければ!”という思い込みや自己犠牲はいらない。それぞれの家庭の事情の中で、親ができることを工夫してやればいいと西さんは考えたのだ。

子供は“未来からの使者”

また、西さんにとって、子供は自分のものではなく天から預かった大切な存在“未来からの使者”なのだという。美しいもの、自然なものを見て育ってほしいという思いから、見える景色を大切にしていたという。

「たとえば、鉄板で焼きそばを作ってもそのまま食べずに、ロイヤルコペンハーゲンとかそのときのお気に入りの器に盛るの。お箸には必ず箸置きを用意して、食卓をしつらえる。この全体の景色が大事。子供たちには小さなころからそうやって自分たちで準備させてきたけれど、そうすると自然に自分たちが見てきた景色を作るようになるんですよ。プラスチックの食器を使わないから、よくお皿を割っていたけど、片づけも含めていろんなことを自身で学んでいくわね」

笑顔で語る西さん
固定観念にとらわれないことが仕事と家庭を両立するコツ
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子供は親の背中を見て育つ

たとえ四六時中一緒にいられなくても、子供は親の背中を見て育つ。子供は自然と、親が大切にしている物事を感じ取って成長していくのだと西さんは語る。そのようにして成人した子供たちは現在、長男は飲食店に務め、高校時代にイギリスに留学していた次男は外資系企業、三男はナショナル企業の会社員。「比較的素敵に育ったと思うわ」と西さんは満足そうだ。

50歳で始めたことがこの先の人生を楽しくする

子供の手が離れた50歳の頃に、西さんは「チャリティーカジノパーティー」というユニークな奉仕活動をスタートした。きっかけは、西さんが子宮筋腫でがん研有明病院に入院したときに始まる。入院生活の中で、抗がん剤で脱毛した患者たちを支援する「帽子クラブ」の存在を知り、「今こそ自分も動きゃなきゃ」と思ったのだ。

息子がきっかけの「何か社会に貢献したい」という思い

西さんが帽子クラブにすぐに賛同したのには理由がある。息子が小学生の頃「世の中のために役立つんだ」と、一生懸命ベルマークを集めていた姿がずっと心にあった。「大人の私も何か社会に貢献したい」と常々考えていたのだという。

黒いロングスカートを履いた西さん
西さんが発起人のチャリティーカジノパーティーでの衣装
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西さんが発起人となり始めたチャリティーカジノパーティーは、20年以上たった今も続き、収益を「帽子クラブ」に寄付している。 “おしゃれをして楽しくゲームで遊び、人の役に立つ”というコンセプトは、いかにも西さんらしい。“70年代” “宇宙”“ゴージャス”など、毎年変わるドレスコードも参加者に好評なのだそうだ。

赤いトップスと黒いロングスカートを合わせたファッションの西さん
赤いトップスと黒いロングスカート姿が素敵な西さん
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50代で始めたことも10年20年続けると形になる

「ことさら誰かのためなどと構えず、誰もが笑顔で続けられるのが一番」と話す西さんは、ボランティアに限らず、何か好きなことを始めたほうがいいとすすめる。

「50歳なんてまだまだ若い。50代から何か始めてプロになった人って結構いるのよ。ヨガを始めてインストラクターになったり、フラダンスの先生になったり。10年20年続けるとしっかり形になるわ。何かを始めるのに遅いということはないんですよ」

執着を捨てて手放すことで自由になる

夫婦二人三脚で3人の子供を育て上げた西さんは、還暦を迎えたことと子供たちが大学を出たことを期に「家族解散宣言」と称し、家族という形をリセットした。

笑顔の西さん
「家族解散宣言」と称し、家族を”解散”したことで肩書きから自由に
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「妻とか母とかの肩書から解放されると、自分のために使える時間が増えるでしょう? だから、『これからは家族それぞれが自分の好きなスタイルで生きていきましょう』と、解散宣言をしたの。そうすると年々体は年を取っていくんだけど、反比例して心は若くなっている気がする。

息子たちはアパートメントを借りて一人暮らしを、夫は月の半分は三重県の実家で農業をやって、家族の関係も一緒に暮らしている頃より、おのおのがやりたいことを自由にできる風通しのいい関係になったの」

これまで5人でにぎやかに暮らしてきたのが散り散りになったのだから、寂しくはないですかと尋ねると、西さんは執着しないことがよいのだという。その姿勢は、仕事においてもいい影響をもたらしている。

「若い頃はすべて自分でやろうとしたけど、仕事が増えるとそうもいかない。自分だったらこうするのに……という思いを捨てて、人を育てて任せてみたら発展性があることがわかったの。後輩の美意識が自分と違っていても理解するようにつとめました。自分にはないアイディアが生まれるし、チームワークでやると楽しいなぁって。こだわりを手放したからこそ味わえたことだと思います」

◆スタイリスト・西ゆり子さん

西ゆり子さん
スタイリスト・西ゆり子さん
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にし・ゆりこ。スタイリスト。テレビ番組におけるスタイリストの草分け的存在で、ドラマスタイリストとしてテレビドラマと映画およそ200作品を手がける。2019年度「日本女性放送者懇談会50周年特別賞」受賞。現在は、一般個人向けに「CoCo Styling Lesson」や、無料でスタイリングの知識を得られる「着る学校」(https://www.stylingschool.org)というコミュニティも展開。近著に『ドラマスタイリスト西ゆり子の 服を変えれば、人生が変わる』(主婦と生活社)。

撮影/五十嵐美弥 取材・文/森冬生

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