
近年、終活の一環として「実家じまい」が注目されています。すでに空き家になっているなら、負の遺産になる可能性も――。タレントの松本明子さん(56歳)が直面した「実家じまい」も失敗の連続でした。『実家じまい終わらせました!――大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方』(祥伝社)を上梓した松本さんに実家の売却にまつわる“失敗談”を聞きました。
実家の年間の維持費は約37万円
香川県高松市の実家を手放そうと一念発起し、その翌年に売却することができた松本さん。しかし、そこに至る25年間の空き家の維持費に1800万円以上もかけてしまった。
「家計簿をつけていたら、もっと早く維持費が高額なことに気づけたかもしれません。生活に追われていると、実家って後回しにしちゃうんですよね。芸能界の仕事は水物なので、仕事に困って実家に戻る可能性はゼロではないと考えていたのも、ズルズルと先延ばしにしてしまった要因です」(松本さん・以下同)

庭の草木の手入れ費用も
1993年に松本さんが両親を東京に呼び寄せてから、高松の実家は空き家になった。家や庭の手入れをするために両親や松本さんが年に数回戻るため、電気と水道は止めていなかった。その維持費は1年間で、水道代は約1万2000円、電気代は約8万円。そのほか固定資産税が年に約8万円、火災保険が年に約10万円。合わせて年間27万円ほどかかっていた。

「きちんと計算したことがなくて、こうして数字で見てびっくりしました。維持費がかかっていることはわかっていましたが、別のところで節約してるから問題ないと油断していたんです。だから水道や電気は止めなかった。ガスは危ないと思って止めていましたけど。これを25年も続けてしまったんですから、大失敗です。
しかも、父と母が年を重ねて高松への帰省が難しくなってからは実家の庭木の剪定ができませんでした。すると市役所から、庭の草木を手入れしてください、と連絡が来てしまい、地域のシルバー人材センターに頼むことにました。1回5万円の植木の手入れを年に2回依頼したことで、年間の維持費は約37万円に増えました」
いざというときのためにリフォーム
松本さんは「芸能界きってのドケチ」といわれるほど節約をしていたという。その内容は、とにかく物を長く使うこと。

「贅沢品を買わないとか、食費を節約するとか。当たり前で些細なことですけど、楽しく節約していました。自分の衣類は10年愛用が基本です。でも、夫はやりすぎだと思っているようですね。私が仕事から帰ってくると、古くなった室内用の服とかスニーカーがゴミ箱に入っているんですよ。
まだ使えるのにって、悲しくなっちゃう。それで、寝静まってからゴミ箱から取り出すのですが、夫にバレるとプチケンカの始まりです(笑い)。それくらい節約していたので、維持費としてお金が減っていくことに気づけなかったのかもしれません」
東日本大震災がきっかけ
2011年に東日本大震災が起きると、東京に住めなくなった場合の避難場所にしようと考えた。それも新たな出費につながった。
「いざというときにすぐ住めるように、リフォームをすることにしました。お風呂やトイレなどの水回りを全面改修し、和室をフローリングに張り替えるなど、約350万円かかりました」

実家をどうするのか、早めに方針を決めることが大事
結局その後も実家に住むことはなく、2017年に「実家の片づけ」をテーマにしたテレビ番組の出演がきっかけで、本気で実家を手放す決意をする。

「このままでは子供や孫にまで苦労をかけてしまうと気づいたんです。実家じまいをすると決めてからは、売るにしろ貸すにしろ、もう少しきれいで使いやすい方がいいと考えて、2回目のリフォームを行いました。かかった費用は250万円で、前回の分と合わせると約600万円になります」
実家の査定は土地代のみの200万円だった
実家じまいをすると決めてから、テレビ番組の収録で行った不動産会社の査定では、実家は200万円だった(上物0円、土地約200万円)。1972年に建てた父親こだわりのマイホームは当時、約3000万円(上物約2000万円、土地約1000万円)。築年数は経っているが、600万円をかけてリフォームしていたので、これにはショックで言葉が出なかったという。
「更地にすれば買い手がつきやすいけど、費用は500万円ほどかかると言われて、追い打ちをかけられました。香川県が運営する『空き家バンク』に登録して3か月後、運よく希望額の600万円で買い手が見つかり、心底ほっとしました」

これらの実家じまいの経験から、松本さんは空き家の実家を抱える人にアドバイスを送る。
「実家を売却するのか、維持するのか、賃貸に出すのか、財産放棄するのか、将来の道筋を早めに立てたほうがいい。私も判断を先送りにしたせいで、こんなに費用をかけてしまいました。空き家の問題は誰にでも起こり得ることだと痛感しました」


◆タレント・女優・松本明子さん

1966年4月8日生まれ。香川県出身。1982年にオーディション番組『スター誕生!』(日本テレビ系)で合格し、翌年に歌手デビュー。その後、元祖バラドルとして『DAISUKI!』や『進め!電波少年』(共に日本テレビ系)などに出演し、人気を確立。現在はバラエティー番組の他、ドラマ、映画、舞台と幅広く活動中。今年6月、『実家じまい終わらせました! ――大赤字を出した私が専門家とたどり着いた家とお墓のしまい方』(祥伝社)を出版。https://twitter.com/akkotongattelne
撮影/平野哲郎 取材・文/小山内麗香