健康・医療

介護で必要になる「強い力」を引き出すコツは古武術にあった 理学療法士が解説

介護をはじめ、日常生活で力が必要とされる場面に役立つワザとは?(Ph/photoAC)
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重い荷物を持つ、介護で人を抱える……そうした日常生活の「力を出さなくてはいけない場面」で、私たちは「筋力不足だから力が出せない」とあきらめることが少なからずあります。しかし、『図解でわかる! 古武術式 疲れない体の使い方』(三笠書房)の著書で理学療法士の岡田慎一郎さんは「誰もがそれをする力を元々持っているが、できない人は本来の力を引き出せていないだけ」と指摘します。介護などで必要な「強い力」を引き出すコツを、古武術の観点から聞きました。

カギは股関節!重い荷物を持ち上げるコツ

重い荷物を下から持ち上げる場面を考えてみましょう。腕の力だけで引き上げようとすると、腰痛の原因になることがあります。体をどう使うのが正しいのでしょうか。

重い荷物は腕の力だけで引き上げてはいけない(Ph/photoAC)
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股関節で持ち上げる

「重い荷物を、腰が高いまま、腕力と腰でつり上げるように持ち上げると、腰を痛めやすくなります。

本来の力を引き出すコツは股関節。荷物にしっかり近づくために、ひざとつま先を外側に広げて股関節からしゃがみます。肩甲骨を開いて荷物を抱えるように持つと、荷物と体が近づいて一体化し、重い荷物でも軽く持てるようになります。持ち上げる際は、股関節から始めて上体とひざを伸ばし、立ち上がることで楽に持ち上げることができます」(岡田さん・以下同)

まず「股関節を広げ、体を前に倒し」荷物にしっかりと近づいてしゃがむ。荷物を抱えたら「股関節から上体を起こして」いき、「立ち上がる」。こうすると荷物と体が一体化し、重いものが軽く持てるようになる
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手のひらを返すと大きな力が使える

持ち手のない荷物を持ち上げる場合、「手のひらを返す」と、腕力に頼らずに楽に持ち上げられると岡田さんは言います。

「まず、両腕の手の甲を上にして構え、肩甲骨を左右に広げます。そのまま両腕を荷物に回して抱えるようにし、背中に適度な張りを感じながら、手首をくるっと返して荷物の下に手のひらを入れ、手のひらから持ちましょう」

このラクワザは段ボールやテーブル、鉢植えなど、さまざまなものに応用可能な持ち方です。上手に手のひらを返しながら重い荷物を負担なく持ち上げましょう。

「かいな返し」で力を引き出す

重い荷物を手にかけて運ぶ際にも、古武術が応用できるそうです。

買い物時の重いレジ袋を軽くする楽ワザとは?(Ph/photoAC)
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「古武術や相撲などの技法に『かいなを返す』があります。かいなとは、腕の古語で、腕を返すことで全身の力がラクに引き出せるようになるのです」

取っ手のある重いものを持ち上げる

「取っ手のある重いものを持ち上げる時は、手首を返し、内側からかけるだけで軽々と持ち上げることができます。

手首を返して内側からかけると、肩甲骨が広がり、背中に適度な張りが生じます。この張りを保ちながら、荷物を持ち上げることで、背中と腕を中心に全身を連動させることができます」

反対に、手首を返さないで持つと腕力中心となり、負担が大きくなってしまいます。体を痛める原因にもなりますので注意しましょう。

買い物袋は「狐の手+かいな返し」で

買い物袋やゴミ袋などの重いものを手にかけて持ち運ぶと、徐々に重さがきつくなることがあります。そこで岡田さんがすすめる楽ワザは、「狐の手+かいな返し」です。

「重い袋の取っ手はぎゅっと握らず、中指、薬指の根元をかけるようにします。手の形は、影絵の狐を作るときのようなイメージです。これで握力がセーブできます。そして手の甲を内側に向け、肩甲骨を広げることで、背中と腕が連動します。背中に張りを出して持てば、無理なく力が出せるようになります」

疲れてきたら持ち手を左右交互にします。

負担が軽くなる!介護で使える楽ワザ

体に負担がかかりやすい介護の場面で使える楽ワザについても聞きました。

「倒れる力」を利用する

介護でベッドや車椅子からずり落ち、立ち上がらせることは最も困難な場面です。腕の力だけで力いっぱい引き上げようとすると、腰を痛めることが少なくありません。

「コツは、『倒れる力を有効に使う』ことです。

床に座った人を立ち上げるなら、両足を肩幅に広げてしゃがみ、相手の骨盤に両手を回します。ポイントは、自分の腕を自分の膝で挟むことです。

床に座り込んだ人を立たせる楽ワザ。両足を肩幅に広げてしゃがみ、相手の骨盤に両手を回す。このとき、自分の腕を自分の膝で挟むのがポイント
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続いて後ろに倒れながら、自分のお尻を突き上げていきます。後ろに倒れる力と、上方向に立ち上がる力が合成され、斜め後ろ方向の力が出せます。この力を利用することで、腕の力をほとんど使わなくても、相手を起き上がらせることができます」

後ろに倒れ込みながらお尻を突き上げていく。ななめ後ろ方向に力が出せる(※少しでも腰に負担がかかったら、すぐに中止を)
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このとき、“滑り台を下から上に滑らせるイメージ”で行うと、バランスよく「倒れる力」を引き出せるそうです。

腕の力をほとんど使わずに、相手を自然と起き上がらせることができる
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※少しでも力任せになったらすぐに中止しましょう。

◆教えてくれたのは:理学療法士・岡田慎一郎さん

理学療法士・岡田慎一郎さん
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1972年茨城県生まれ。理学療法士、介護福祉士、介護支援専門員。JAMSNET東京理事長兼事務局長。高齢者介護施設における身体介助法を模索するなか、武術研究家の甲野善紀氏と出会い、古武術の身体運用を参考にした「古武術介護」を提唱。近年は介護、医療、リハビリ、消防救命、育児、健康増進、教育などの分野で講演、執筆するなど多岐にわたり活動中。今年9月、『図解でわかる! 古武術式 疲れない体の使い方』(三笠書房)を出版。

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