
「日常生活で疲れを感じてしまう人の中に、『もう年だから』『筋力が落ちた』などと考えている人がいますが、あきらめる必要も、特別に体を鍛える必要もありません。私たちは誰もが『疲れず、痛めず、力を発揮できる体』をもっているのです」——『図解でわかる! 古武術式 疲れない体の使い方』(三笠書房)の著書で理学療法士の岡田慎一郎さんはそう言います。駅の階段、電車・バス・車の移動で疲れないための、古武術を応用した楽ワザについて聞きました。
疲れない階段の上り下り
岡田さんによると、日常生活の動作でも「疲れやすく、痛めやすい体の使い方」があるといいます。
「いわゆる『腰が入っていない』動作がそれです。全身を使わずに部分的に体を使うと、かえって腰を痛める原因にもなります。
たとえば自宅や駅などの階段の上り下りでは、手足を交互に出して階段を上ると、腰がねじれやすく、上半身と下半身が分断されてしまいます。全身が連動しないため、呼吸もしにくくなり、疲れやすくなるのです」(岡田さん・以下同)
ではどうすれば疲れない階段の上り下りができるのでしょうか。
上りは「手のひら」を太ももに

「階段を上るときは、『腰をねじらないようにする』のがポイントです。コツは、手のひらを太ももにつけて上ること。そうすれば腰がねじれず、全身が連動し、呼吸もラクになります」
手足を交互に出しながら歩くのが一般的ですが、そうすると脚力に頼ることになり、疲れやすくなるそうです。
「手のひらを太ももにつけながらつま先をやや外側に向けると、太ももの内側も使えて疲れが軽減します。筋肉を効率よく使えるのでおすすめです」
「四足歩行」で衝撃を分散して下りる
階段を下りるときにもコツがあります。
「階段を下りる時はひざに負担がかかりやすくなります。ひざへの衝撃をいかに分散させるかが、ワザの見せどころです。
まず簡単なのは、太ももの上辺りに手を添えながら、手と足を同時に動かして下りる動作です。腰がねじれず、全身がまとまって動くようになり、四足歩行になった感覚になります。この『四足歩行の要領』で衝撃を分散させましょう。
慣れてきたら、太ももから手を離し、手のひらを下に向けるようにする(手のひらを階段につけるイメージを持つ)と、より安定し、衝撃も分散しやすくなります」
揺れる車内でも楽な姿勢を
外出時、電車やバスの車内で立つ際にも楽な姿勢のコツがあるそうです。

「電車やバスのつり革をぎゅっと握りっぱなしでは疲れるうえ、肝心な時に体勢が保てません。ポイントは、つり革の握り方にあります」
つり革は中指と薬指をひっかけるだけ

「コツは、つり革に中指と薬指のつけ根をひっかけることです。それだけで腕と体が一体化して、全身の力を引き出すことができます」
それはなぜでしょうか?
「手には、指全体を伸ばす総指伸筋(そうししんきん)と、各指を個別に伸ばす筋肉がついています。しかし、中指と薬指には個別の伸筋がついておらず、曲げるほうが得意な指です。
しかも、中指と薬指は腕に沿っているので、体の力や動作も伝わりやすい。つまり、中指と薬指をかけるだけで、十分に体制を保てる力と構造を備えているのです。これは、カバンなどを手に持つときにも応用ができます」
立つときは「力を抜く」と安定する
揺れる車内でつかまるところがないときにも、揺れに強くなる立ち方があるそうです。
「電車やバスでつり革が持てない場合、足を踏みしめて立つと、体が力んで、かえってバランスを崩しやすくなります。それよりも、足を踏みしめずにリラックスした状態で立つほうが、断然安定します」
両足はT字に置く
「その際、足をT字型にすることで揺れに強くなります。かかと、小指、親指の3点をしっかり接地させることで、土踏まずのアーチが保たれ、衝撃も分散されやすくなります」
ムリなしムダなしの「車の乗り降り」
自家用車やタクシーでの移動の際、車の乗り降りが何となく苦手という人は少なくないようです。そんなとき、岡田さんがおすすめするのが「お尻から乗る」方法です。
「お尻から」乗り込む
「乗り込む際は、頭を下げてお辞儀をするように正面からするのではなく、上体を前傾させて『お尻から』にしましょう。頭がつっかえそうになることなく乗車できます」

股関節から前傾させる
「シートに座ったら、お尻を軸にして回転しながら両足を車内に入れます。降りる時は、お尻を中心に回転しながら、前傾し、車外に足をおろしてください。いずれの場合も、ポイントは股関節から上体を前傾させること。エビがお尻から後方に泳ぐようなイメージで動いてみましょう」
はじめに足を1歩入れてから行う応用も可能だといいます。なんとなく苦手意識のある動作も、古武術のワザを取り入れることで改善されるようです。
◆教えてくれたのは:理学療法士・岡田慎一郎さん

1972年茨城県生まれ。理学療法士、介護福祉士、介護支援専門員。JAMSNET東京理事長兼事務局長。高齢者介護施設における身体介助法を模索するなか、武術研究家の甲野善紀氏と出会い、古武術の身体運用を参考にした「古武術介護」を提唱。近年は介護、医療、リハビリ、消防救命、育児、健康増進、教育などの分野で講演、執筆するなど多岐にわたり活動中。今年9月、『図解でわかる! 古武術式 疲れない体の使い方』(三笠書房)を出版。