「最近、何をするにもおっくうで、やる気がしない」と思うことはないでしょうか。実はそれが脳の老化のサインかも知れません。脳科学者の西剛志さんは、やる気のスイッチが加齢とともに入りにくくなると言います。しかし、何歳になってもやる気があり、ずっと生き生きとした人生を送る人もいます。そんな人になるための方法を、西さんの著書『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)より、教えてもらいます。
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脳の老化を防ぐなら、生きがいを持つべき理由
脳の老化=“老人脳”が進んでいる人は、やる気ホルモンであるドーパミンを分泌する線条体の働きが衰えていると西さんは言います。
「線条体は新しいことやワクワクすることがあると活性化し、やる気スイッチが入ります。このスイッチが加齢により入りにくくなるのは、ドーパミン神経や男性ホルモンの分泌が衰えてくることも関係しています」(西さん・以下同)
しかし、何歳になってもやる気があり、新しいことにチャレンジしている人がいるのも事実です。どんな違いがあるのでしょうか。
生きがいと脳の老化の関係とは?
アメリカでは、生きがいと脳の関係性について、250人の高齢者を10年にわたり調査し、亡くなったときに脳を解剖した結果、生前に生きがいを持っている人とそうでない人で明らかな違いが判明したそうです。それは、生きがいがある人は、加齢によって脳が萎縮していても認知機能が高いということです。
さらに、生きがいは大きな目標ではなく、小さく達成しやすいほうが、前頭前野の先端にある前頭極と呼ばれる領域が活性化することもわかっているそうです。
「生きがいはこういうものじゃなきゃいけないということはありません。その人が心からそう思えればなんでも大丈夫です。植物を育てたい、切手を集めたい、ゴルフを極めたい、孫を育てる助けをしたい……本当になんでもいいのです」
西さんいわく、旅行を生きがいにするのもおすすめだそうです。旅行に行くという目標を設定するだけで認知機能が上がり、計画を立てただけで脳の前頭前野が活性化し、脳にはとてもよい効果があると言います。
ちょっとした新しいことをするだけで脳が変わる?
日々の暮らしの習慣の中でも、脳によい効果をもたらす行動があるそうです。それは、新しいチャレンジを進んでするということ。
「新しいことにチャレンジするのは脳の機能維持に効果があります。脳のネットワークが新しいことにチャレンジすると増えるからです。この能力は高齢者でも起きることがわかっています。ですから、神経のネットワークの数は年齢に関係なく増やすことができるんです。いくつになっても脳が老化しない人は、脳神経ネットワークの数が多いことがわかっています」
国立長寿医療研究センターの西田裕紀子副部長が6年にわたって行った大規模調査によると、新しいことにチャレンジしない人は、もともと認知機能が低い人が多く、それが6年後にはさらに低くなってしまうそうです。しかし新しいことにチャレンジするのが好きな人は、6年経っても脳の認知機能がほぼ落ちず、むしろ記憶の定着率がよくなっているのだとか。
新しいことというと難しく考えてしまうかもしれませんが、小さなことでOK。行動を変えるだけでなく、環境を変えてみるのも手です。たとえば、散歩や通勤で歩く人は、その道を毎日変えてみたり、歩くスピードを変えてみたり。ほかにも、花やグリーンを机においてみる、反対の足から靴を履いてみる、新しい入浴剤を入れてみる、寝る場所や方向を変えてみる、コンビニで普段買わないものを買ってみるなど、少しの変化をもたらすことが脳によいそうです。
脳によい効果を与える手帳の使い方の習慣
日々の習慣を変えて脳によい効果をもたらすならば、手帳もおすすめ。西さんによると、認知機能を高めるには、一般的なスケジュールを埋める使い方とは違った2つの使い方をするのがおすすめだそうです。
(1)脳の認知機能を挙げる「生きる目標設定」
ひとつは、「生きる目標を設定する」という方法。明日・1週間後・1か月後・1年後と、それぞれもし死ぬとしたら何をしたいかを手帳に書きます。
「こうして人生の終わりを意識することは、脳の認知機能を上げる効果があります。期限にバリエーションを設けることで、自分がやりたいことの全体像が見えてきます。目標ができると、そのために何をするべきか考えて、脳が動き出すのです」
(2)脳が活性化する手帳の4つの法則
もうひとつは、4つの法則を使って脳を活性化させる方法です。毎日がより楽しくなる方法とも言えますので、試してみて下さい。
【1】予定がなかったとしても毎朝、今日したいことを書く
手帳に書き込む予定がない日でも、今を楽しむ目標を設定することで、脳に刺激があり、認知機能を高めて、脳の老化を予防する効果があります。
【2】一日の終りに今日成功したことよかったことを5つ書く
「友人が旅行のお土産のお菓子を買ってきてくれた」「きれいな花を散歩中に見た」「夜ごはんのアジフライがおいしかった」「テレビ番組を見ていてこんないい情報を知った」など、小さなことでOK。自分でも気づかなかった、生活の変化に気づき、よいことに脳がフォーカスして認知機能も幸福度も上がり、人生に好循環が生まれます。
【3】目標のための数値を書く
「血圧の数値を落としたい」「10kg痩せたい」「節約をもっとしたい」「英語の勉強をしたい」など、自分が達成したいことを明確にして、毎日そのための数値を記入するのも、脳によい習慣です。書くことで日々の目標を認識し、自然と達成するための行動をとるようになります。
【4】心がフフッと喜ぶことを予定に入れる
やってみたいことを先の予定に書き込みましょう。実現しなくてもOKです。空想のスケジュールをつくるような感覚で、1か月先、半年先、1年先の予定を記入してみて下さい。