
物忘れが気になる…などといった症状は脳の老化が原因かも(Ph/photoAC)
歳をとるごとに怖くなる脳の老化。自分では大丈夫だと思っていても、いつのまにか記憶があいまいになったり、何度も同じことを言っていたり…。できることなら、若々しい脳でいたいですが、自分では変化に気づきにくいものです。そこで、『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)を上梓した脳科学者の西剛志さんが教える、脳の老化度の診断チェックリストをやってみましょう。また、脳の老化を対策できる手軽な運動についても合わせて解説します。
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自覚しにくい脳の老化を診断リストでチェック
西さんによれば、人間の脳は通常、30代から少しずつ萎縮が始まるそうです。
「脳はだんだんと萎縮していき、60代半ばになるとMRI検査の画像を見てすぐわかるくらいの明らかな萎縮が起きます。もしそのまま何の対策もせずにいると、脳の老化、つまり“老人脳”になっていくのです」(西さん・以下同)

自分では気づきづらい脳の老化(Ph/photoAC)
体の衰えよりも、脳の衰えはさらに自覚が持てないもの。そこで、「老人脳自己診断チェックリスト」を使って、まずは自分の脳の状態を知りましょう。
タイプ別「老人脳自己診断チェックリスト」
あなたの脳の老化のタイプが分かる診断リストです。【A】~【E】のそれぞれの項目で、該当するものにチェックを付けて、該当した数をメモして下さい。時間をかけて頭で考えると正確な結果が出ないことがあるので、時間をかけずに直感でチェックをつけましょう。
【A】
□新しい場所に行くのが億劫
□集中力が続かない
□最近、流行っている曲を聞いてもわからない
□食べたいと思えるものがあまりない
□新商品には興味がない
□昔と比べると本を読まなくなった
□昔話や「あの時代」がいかによかったかばかりを話す
【B】
□人の名前や顔が覚えられない(アイドルが同じ顔に見える)
□同じことを何度も言うことがある
□約束の日時や場所を忘れる
□何度も忘れ物がないか確かめる
□用事があってその場所に行っても何をするか忘れてしまう
□ものをどこに置いたかわからなくなる
□同じものと気づかずに二度買ったことがある
【C】
□考えて買うより感覚で買うことが多くなった
□情報を鵜呑みにしてしまう傾向がある
□同時に2つの作業ができなくなってきた
□スケジュールを甘く見積もって遅れてしまう
□料理・計算・運転でうっかりミスをすることがある
□過去の成功体験に縛られて同じ選択をしてしまう(同じメニューを頼む、いつも同じ人と付き合うなど)
□衝動的に行動することが多くなった(待てなくなった)
【D】
□他人の意見に共感することが少なくなってきた
□服装に気を使わなくなってきた
□人の話をあまり聞いていない
□批判されても気にならなくなってきた
□店員さんにタメ語をよく使う
□プレゼントをあげても喜ばれなくなってきた
□気づいたら相手を傷つけていることがあった
【E】
□名前をよく聞き間違える
□ボリュームを上げないと聞こえにくい
□騒音の中では、会話や電話がしづらい
□高い音が聞こえにくい時がある
□テレビや音楽の音が大きいと周りから言われる
□音がどこから聞こえてくるかわかりづらい
□早口でしゃべられると理解できない
診断結果から”脳の状態”を確認
【A】~【E】は老人脳のタイプ別に分かれています。4つ以上当てはまる項目があれば、該当するタイプの老人脳になっている可能性が高いです。また、複数のタイプで4つ以上チェックが入る場合は、複合的な老人脳になっていることもありえます。
【A】やる気低下型の老人脳
やる気のホルモン、ドーパミンを分泌する線条体の働きが衰えている可能性があります。
【B】記憶低下型の老人脳
記憶の中枢とも言われる海馬や記憶に関連する部分の働きが低下している可能性があります。
【C】客観・抑制低下型の老人脳
物事を客観視したり、判断したり、感情を抑制する前頭前野を中心とした部分に衰えが見られる可能性があります。
【D】共感低下型の老人脳
人の気持ちを理解する前帯状皮質や島皮質などを含む場所が衰えてきている可能性があります。
【E】聴覚低下型の老人脳
音声の刺激が入力される内耳組織や聴覚中枢、認知機能全般が衰えてきている可能性があります。
「脳活ドリブル」で脳を活性化させよう
先ほどの診断で、予想以上に“老人脳”に当てはまった人もいるかもしれませんし、意外とまだ大丈夫だと感じた人もいるかもしれません。
「この5つの要素は、いくつか同時に起こることもありますし、中には全部の症状がある人もいます。さらに、脳の老化は高齢者にだけ起きる症状ではなく、若いと30代でなり始める人もいます」
メンテナンスをしないままだと、どんどん脳の老化が進んでしまう恐れが。そこで西さんは、改善&予防ができる運動をするのがおすすめだといいます。

「脳活ドリブル」にチャレンジしてみて(Ph/photoAC)
脳の老化を遠ざける運動とは?
西さんによれば、“老人脳”をこれ以上進行させない、もしくは遠ざける方法があると、最新の研究からわかってきたそうです。
「脳が若々しい人は、70歳を超えても、脳の神経細胞が新しく生まれていて、いつまでも若い脳を保つことができるんです。そこで、脳の認知機能を高める運動をおすすめします」
脳の認知機能を最も高める効果があるのは、コーディネーション運動と呼ばれるもの。複数の動きを同時にする運動のことで、脳から体への伝達速度をよりスピーディーに、より正確にすると言われているそうです。
中でも特に手軽に、楽しみながらできるのがバスケットボールを使うドリブル。西さんが考案した「脳活ドリブル」なら、ボール1つあればできて、けがをしにくいのでおすすめです。
若々しい脳を保つ!「脳活ドリブル」のやり方
バスケットボールやバレーボール程度の大きさのボールを1つ用意します。100円ショップなどで売っているゴムボールなどでOK。自分がやりやすいボールを使いましょう。

脳活ドリブルのやりかた(Ph/『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)より)
【1】立った状態でボールを利き手で10回ドリブルした後、反対の手でドリブルを10回する。
【2】両ひざ立ちになるように座り、利き手で10回ドリブルして、反対も同様に10回ドリブルする。
室内など、ドリブルがやりにくい場所の場合は、投げてキャッチもおすすめです。

投げてキャッチなら、室内でも行いやすい(Ph/『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)より)
【1】立った姿勢でボールを頭の上に投げてキャッチ。これを5回行う。
【2】立った姿勢でボールを頭の上に投げて、手を1回叩いてキャッチ。これを5回行う。男性は手を叩くのを2回、3回と増やすとさらによい。

5分を目安に繰り返し行うのがおすすめ(Ph/『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)より)
【3】座りながらボールを頭の上に投げてキャッチ。これを5回行う。
【4】座りながらボールを頭の上に投げて、手を1回叩いてキャッチ。これを5回行う。
どちらも5分を目安に繰り返しやってみましょう。時間を長くできれば、さらによいです。5分できない場合は、自分ができる範囲でやってみて、少しずつ時間を伸ばしてみて下さい。
脳を鍛える運動は男女でやり方を変えたほうが効果的という研究結果があり、男性は少しずつ強度を上げていくと効果的で、女性は強度を上げずに穏やかな強度のままで運動するのがよいそうです。女性の場合はハードな運動がむしろ逆効果になってしまうことを知っておきましょう。
◆教えてくれたのは:脳科学者(工学博士)、分子生物学者・西剛志さん

脳科学者(工学博士)、分子生物学者の西剛志さん
東京工業大学大学院生命情報専攻卒。博士号を取得後、特許庁を経て、2008年に企業や個人のパフォーマンスをアップさせる会社を設立。世界的に成功している人たちの脳科学的なノウハウや、才能を引き出す方法を提供するサービスを展開し、企業から教育者、高齢者、主婦など含めて1万人以上をサポートしている。テレビやメディアなどにも多数出演。著書シリーズは『80歳でも脳が老化しない人がやっていること』(アスコム)をはじめとして累計17万部を突破。http://www.trdesign.jp/designer.html