
韓国では、俳優としても活躍するアイドルのことを昔から「演技ドル(ヨンギドル)」と呼び、高い演技力や表現力で一目置かれています。とかく男性アイドルに注目がいきがちですが、いやいや、俳優としての高いポテンシャルをもった女性アイドルも大勢いるのです。今回は歌と演技の実力を兼ね備えた最強の“ヨジャドル”(ヨジャアイドル=女性アイドル)を、韓国エンタメライターの田名部知子さんが紹介します。
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そもそも「演技ドル」って?
日本のドラマ界でもジャニーズ事務所所属の演技派アイドルたちが毎クール主演を張りますが、韓国の演技のできるアイドルたちは、2000年代ごろから登場しました。
古くは、韓国のSMAPといわれた神話(シンファ)のエリックや、2000年代を代表する国民的アイドルグループgod(ジーオーディー)のユン・ゲサンに始まり、日本で第2次韓流ブームが起きた2010年前後には、『花より男子〜Boys Over Flowers』(2009年)のキム・ヒョンジュン(SS501/ダブルエスゴーマルイチ)、『トキメキ☆成均館スキャンダル』(2010年)のユチョン(元JYJ)、『IRIS-アイリス-』(2009年)のT.O.P(BIGBANG)、『ドリームハイ』(2011年)のIU(アイユー/ソロ歌手)、ペ・スジ(Miss A)、テギョン(2PM)らが現れ、「演技ドル」という言葉が定着しました。


なぜ韓国のアイドルは演技がうまいのか?
韓国には、演技の勉強や基本的な訓練、発声法などを徹底的に学べる演劇専門の大学や専門学科をもつ大学が40校近くもあり、有名といわれる俳優のほとんどが、そのような場所で厳しい訓練を受けてきています。また、老若男女問わず映画やドラマをこよなく愛する国民性なので、作品や俳優の演技に対する視聴者の目はものすごく厳しく、ぎこちない演技や不正確な発音や発声がある俳優には、すぐにテレビ局に苦情の電話や投書が殺到します。
だからこそ、韓国ドラマが世界で闘えるレベルにまで上がってきたわけで、そうでなくても狭き門の俳優の道で、アイドルだからといって、ビジュアルと人気だけで俳優としても活躍できるほど甘い世界ではないのです。
そんな中、アイドルたちは練習生時代には、歌とダンスの基本レッスンのほか、英語、日本語、中国語などの語学教育をみっちり受けさせられ、さらに演技レッスンの時間も相当なボリュームが割かれています。K-POPの魅力のひとつに高い表現力があげられるのも、その演技レッスンの賜物といえるでしょう。
あの少女時代からは、4人も女優に!
男性ばかりが注目されがちな演技ドルですが、女性アイドルたちの勢いと実力、人気も相当なもの。あの少女時代のメンバーも、今は、ユリ、スヨン、ユナ、ソヒョンの4人が女優として活躍しています(現在、少女時代は8人組)。今回は、私が注目している3人をご紹介します。

IU(アイユー/イ・ジウン)|例えるなら、安室奈美恵が演技しているようなもの
ソロアーティストで女優、韓国では「国民の妹」と呼ばれるほど、人気と実力を兼ね備えた国民的歌手のIUは現在29歳。15歳でソロデビューして以来、アルバムをリリースすれば常に主要音源チャートで1位を獲得、BTSのJUNG KOOK、TWICE のナヨン、俳優のソン・ジュンギなど芸能人の中にもファンを公言する人は多いです。2022年末、俳優のイ・ジョンソクとの東京デートがキャッチされ、その後交際を認め、韓ドラ&K-POPファンを大いに驚かせました。

普段の声はわりとハスキーなのですが、ひとたび歌うと、透き通ったソプラノボイスに思わず聴き惚れてしまいます。日本でいえば安室奈美恵的存在の歌姫が、作詞、作曲、プロデュースもこなし(多くの有名アーティストに楽曲を提供)、演技もうまいという非の打ち所がない存在なのです。
女優としては、学園ドラマ『ドリームハイ』(2011年)でデビュー。その後、『プロデューサー』(2015年)『麗<レイ>~花萌ゆる8人の皇子たち~』(2016年)に出演した頃にはすでに演技力に定評があったのですが、女優としての圧倒的な存在感を見せつけた作品が、『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』(2018年)です。
多額の借金を抱え、寝たきりの祖母とともに孤独な人生を歩んできたジアンを熱演し、女優イ・ジウンとしての転機となりました。IUを知らない日本の韓ドラファンは、「え、アイドルなの?」と一様に驚きます。
その後、2022年の第75回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門正式出品作品となった映画『ベイビー・ブローカー』では、赤ちゃんポストに生まれたばかりの子供を捨てた若い母親を演じて、世界的な注目を浴びました。
IU(アイユー/イ・ジウン)出演『マイ・ディア・ミスター~私のおじさん~』

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発売元:コンテンツセブン 販売元:TCエンタテインメント
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建設会社に勤めるドンフン(イ・ソンギュン)はある日、社内で差出人不明の封書を受け取るが、中身は賄賂の金だった。”ドンフン違い”で誤って受け取ってしまったものの、社内での立場は悪化。目撃者である派遣社員のジアン(イ・ジウン)は、最初は彼を助ける気はなかったものの、2人は次第に心を通わせていく。理不尽な世の中に翻弄され、報われない日々を生きる若い女と中年男が、互いに心を癒しあう存在へと変わっていくヒューマン・ヒーリングストーリー。
ジョイ(Red Velvet)|歌も演技も、かわいささく裂
ジョイは、東方神起や少女時代が所属するSMエンターテイメントから2014年にデビューした5人組ガールズグループRed Velvet(レッドベルベット)のメンバーです。愛らしい童顔と全身からあふれる健康美、鼻から抜ける甘くセクシーな声はかわいく艶っぽっく、そこに見事なボディが合わさる無敵の存在です。

2021年には、韓国の名曲をリメイクしたアルバム『Hello』でソロデビューしますが、そのタイトル曲『Hello』の歌い出しのインパクトが元気でかわいくて、いつ聴いても元気をもらえるおすすめの1曲です。ドラマ『賢い医師生活』のOST(オリジナルサウンドトラック)にも、リメイク曲『いい人がいたら紹介して』で参加、さわやかなメロディと甘い歌声で、ドラマの世界観を盛り上げます。
女優としては、日本映画のリメイクドラマ『カノジョは嘘を愛しすぎている』(2017年)で主演を務め、繊細な表情演技が高く評価されました。その後ドラマ『偉大な相続者』(2018年)の主演などを経て、現在Netflixで配信中の『田舎街ダイアリーズ』では、まっすぐで元気いっぱい、熱血なアン巡査役を、持ち前の明るさとキュートさで好演しています。
正直、本作に関してはSNSを見る限り、ジョイの可愛さを絶賛するコメントと、「ドタバタぶりが見ていられない」と評価は賛否両論なのですが、ジョイファンの私としては、彼女の表情や豊かで伸びやかなみずみずしい演技はたまらなくかわいく、まぶしくてキュンキュンします。
ジョイ(Red Velvet)出演『田舎街ダイアリーズ』

ソウルで動物病院を開業している獣医のジユル(チュ・ヨンウ)は、あるきっかけで田舎街・ヒドン里に住む祖父の動物病院を手伝うことに。おせっかいな街の人気警察官アン・ジャヨン(ジョイ)にあれこれ世話を焼かれてとまどい、不快に思うジユルだったが、ジャヨンとともに村の家畜の世話をするうちに、2人の関係は徐々に近づいていく。田舎街を中心に繰り広げられるキュートなヒーリングラブコメディー。
キム・セジョン(元gugudan)|親しみやすい笑顔の注目株
いま最も勢いがあるとされているヨジャドル出身の女優が、2022年秋、日本の人気ドラマ『重版出来!』(2016年)の韓国リメイク作『今日のウェブトゥーン』で主演を務めたキム・セジョンです。等身大の女性をはつらつと演じ、すでに女優として数々の演技賞を受賞しているほど、演技力には定評があります。

日本でも人気のオーディション番組『PRODUCE 101』のシーズン1では、最終順位2位で「I.O.I(アイオーアイ)」のメンバーとしてデビュー。並行してガールズグループgugudan(ググダン)のメインボーカルとしても活躍し、2020年のグループ解散後は、ドラマ『愛の不時着』(2019年)や、自身も出演した『悪霊狩猟団:カウンターズ』(2020年)のOSTに参加するなどソロアーティストとしても活躍しています。
愛らしい顔と、歌うとパンチのあるソウルフルな歌声はとても魅力的。とにかく声量がすごいのです。
そんな彼女の出世作となったドラマが、2022年の大ヒットラブコメディー『社内お見合い』ですが、1話の親友とのカラオケシーンで、少女時代の『Into the New World』を歌う様子は必見。あえて素人っぽく振る舞っているものの、ダンス、歌唱ともうますぎて、見ていて得した気分になります。
キム・セジョン(元gugudan)出演『社内お見合い』

食品メーカーの研究員・ハリ(キム・セジョン)は、親友で財閥令嬢のヨンソ(ソル・イナ)の代理で出かけたお見合いでテム(アン・ヒョソプ)と出会い、破談を目的に出かけたにもかかわらずテムに気に入られ、逆に結婚を申し込まれてしまう。おまけにテムはハリの会社の社長だった。ツッコミどころ満載のシチュエーションにもかかわらず、主演2人のまっすぐでかわいいドタバタ劇に、グイグイ引き込まれてしまう王道ラブコメディー。
K-POP“7年目のジンクス”を見据えた、女優という選択肢
韓国音楽業界には、“7年目のジンクス”があるといわれています。結成7年目にグループが解散してしまうことが多いことを指すのですが、これは、「芸能人と芸能事務所の専属契約期間は最大で7年」と法律で定められているところからくるもので、特に男性アイドルに比べて女性アイドルは短命です。
女性アイドルが女優として活動することは、長い芸能人生を歩もうとするなら必然性があるわけなのです。そんな女性演技ドルたちの覚悟を感じながら、作品を見てみるのも面白いかもしれません。
◆韓国エンタメライター・田名部知子

『冬のソナタ』の時代からK-POP、韓国ドラマを追いかけるオタク記者。女性週刊誌やエンタメ誌を中心に執筆し、取材やプライベートで渡韓回数は100回超え。韓国の食や文化についても発信中。2018年に韓国の梨花女子大学に短期語学留学し、人生2度目の女子大生を経験。twitter.com/t7joshi