私たちは「家族」になることもできる
在日ブラジル人であるマルコスらに対して、MIYAVIさん演じる半グレ集団のリーダーが執拗かつ残酷だと先述しました。そして、それには理由があるとも。彼はとある経験から、マルコスらのコミュニティに属する者たちを目の敵にしています。そこにあるのは、明らかな分断です。彼に対してマルコス本人が何かをしたわけではありません。彼はマルコスらの属性が許せないのです。
一方、誠治の息子である学は出自のまったく違うナディアを愛し、遠く故郷を離れたアルジェリアで働いています。そして彼は、笑顔を絶やすことがありません。まさに半グレ集団のリーダーとは対照的。学は身をもって、国籍や文化や境遇が違っても家族になれることを、手を取り合えることを知っています。彼の明るさや優しさは、そんなところからきているのでしょう。
私たちが生活する社会でも、どこかの誰かが属性の異なる誰かを貶めている現実があります。人種差別、職業差別、性差別……挙げはじめたらきりがない。人によっては何か特別な事情があって、他者との差異に向き合うのが難しい場合もあるのかもしれません。けれども、手を取り合うことができます。「家族」になることもできます。それが本作の訴えていること。私たちがつくる社会は以前よりもずっと、進化しているはずなのですから。
◆文筆家・折田侑駿
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun