
「60代以降の健康寿命を伸ばすためにも、50代からのダイエットでは必要な栄養素をしっかり摂り、筋肉をつけて脂肪を落とすことが重要」──管理栄養士で日本抗加齢医学会指導士の森由香子さんはそう指摘します。『一生、元気でいたければ 50歳からは「食べやせ」をはじめなさい』(青春出版社)を上梓した森さんに、健康的な食習慣「食べやせ」の具体的な方法を聞きました。
「たんぱく質ファースト」とは
まず、森さんが推奨するのは「たんぱく質ファースト」の食べ方です。
やせホルモンが分泌
「たんぱく質ファーストとは、最初に肉や魚など、たんぱく質のおかずを食べてから、ほかの品目を食べるという食べ方のことです。これを実践すると、“やせるホルモン”として注目されているGLP-1という成分が分泌されます」(森さん・以下同)
「GLP-1」とは、食べ物が小腸に流れた際、小腸下部の「L細胞」から分泌される消化管ホルモンのこと。
「GLP-1は、脳の満腹中枢を刺激したり、胃の運動をゆるやかにしたりすることで、食欲を抑える働きがあることがわかっています。つまり、食事のたびにたんぱく質から食べることを実践するだけで、自然と食べる量が減り、無理せずやせられるのです」
たんぱく質の次は?
「たんぱく質のおかずを最初に食べたら、次は野菜やきのこ類、海藻類を食べると、食物繊維が消化管からの糖質吸収を抑えるので、血糖値の上昇を緩やかにする効果がいっそう高まります。ごはんや麺類などの炭水化物は、できるだけ最後に食べるようにしましょう」

50代からのたんぱく質摂取のコツ
50代以降も筋肉量を保ち、太りにくい体質を維持するためには、とにかくたんぱく質をしっかり摂ることが大切と森さんは強調します。
「体重1kgあたり1g以上」が目安
「1日に必要なたんぱく質の目安量は、体重1kgあたり1g以上。1回の食事で少なくとも20〜30g以上のたんぱく質を摂取するとよいでしょう。
たんぱく質を20g摂るには、鶏もも肉(皮付き)なら120g、豚ロース(脂身付き)なら105g、まぐろなら85g、さばなら100g、卵なら170gが目安となります」
タコ、イカがおすすめ

森さんが特にすすめるのは、肉類に比べてカロリーが低い魚介類です。
「たとえば、ほたて貝(貝柱・生)は100gで16.9gのたんぱく質が摂れますが、カロリーは82kcal。まだこ(生)は100gで16.4gのたんぱく質が摂れ、70kcalです。それに対して鶏もも肉(皮なし)は100gで113kcal、豚もも肉(皮下脂肪なし)は100gで138kcal。差は明らかです。
シーフードのなかでも、たこやいかはよく噛んで食べることで食欲を抑えるので、特におすすめの食材です」
そのほか、森さんがおすすめするのは、ちょっとした工夫でたんぱく質を増やす食べ方です。
「ごはんにじゃこや干しえび、粉チーズを加えたり、サラダにかにやツナを入れると、それだけでたんぱく質を増やせます。みそ汁やお浸しにかつお節削りをかけるのも手軽でおすすめです」
60代以降も「たんぱく質ファースト」で
60歳くらいになってくると、そばやうどんなど、さっぱりした食事になりがちです。しかし、それではたんぱく質が不足してしまうと森さんは指摘します。
たんぱく質不足が招く健康問題

「たんぱく質が不足すると、筋肉量の減少、内蔵たんぱくの減少、免疫機能の障害など、体全体の機能が低下してしまい、老けやすく、疲れやすい、病気になりやすい体になってしまいます」
60代に入ったら、今まで以上に肉や魚を食べて、たんぱく質の摂取に努める必要があるといいます。
50代とは異なる目的で
「『たんぱく質ファースト』の目的は、50代と60代では異なります。60代はあくまでもたんぱく質の摂取量をあげることが目的です。
年齢が上がってくると、ごはんなど炭水化物から先に食べ始めると、それだけでお腹がいっぱいになってしまい、たんぱく質の量がどうしても減ってしまいます。肉や魚などのおかずから食べれば、自ずとたんぱく質の摂取量が増えて、炭水化物の取り過ぎも防げるはずです」
いくつになっても健康でいるために、たんぱく質の摂取を意識した食生活を心がけましょう。
◆教えてくれたのは:管理栄養士、日本抗加齢医学会指導士・森由香子さん

東京農業大学卒業、大妻女子大学大学院修士課程修了。医療機関での栄養指導、食事記録の栄養分析、ダイエット指導、フレンチの三國清三シェフとともに病院食や院内レストラン「ミクニマンスール」のメニュー開発、料理本の制作などを経験。抗加齢医学会指導士の立場からは〈食事からのアンチエイジング〉を提唱し、独自の食事法の普及に努めている。著書多数。2023年1月、『一生、元気でいたければ 50歳からは「食べやせ」をはじめなさい』(青春出版社)を出版。https://moriyukako.com/