
ダイエット法と言われて真っ先に思いつくのが「食事制限」です。しかし、『一生、元気でいたければ 50歳からは「食べやせ」をはじめなさい』(青春出版社)の著者で管理栄養士の森由香子さんは、巷で人気のダイエット法のなかには、特に50代以降で注意すべき点があると言います。森さんに話を聞きました。
「朝食抜き」の落とし穴
「忙しいかたが選択しがちなダイエット法のひとつに、『朝食抜きダイエット』があります。1日の食事を2食に減らして摂取エネルギーを減らし、やせようとするものです。しかしこれは、まったくおすすめできません」(森さん・以下同)
この方法には、「思わぬ落とし穴」がいろいろあると森さんは指摘します。
太りやすくなる
「まず、朝食抜きにより、昼食時の空腹感が強くなって、食べ過ぎてしまう傾向があります。昼食が長時間の空腹後の食事になると、肝臓での中性脂肪やコレステロールの合成が亢進されることも大きなデメリットです」
さらに、近年のラットによる研究で、朝食抜きは「遺伝子レベルで太りやすくなる」ことも判明しているそうです。
「朝食を抜くと、体内時計のリズムが乱れ、脂質代謝にかかわる肝臓の時計遺伝子に狂いが生じます。その結果、脂質をエネルギーに変える代謝がうまく働かなくなるのです。体温も上がらないため、脂肪を燃やす酵素は十分に働かなくなり、太りやすくなると考えられています」

疾病リスクも上昇
太りやすくなるばかりか、朝食抜きダイエットは病気のリスクを上げるとの指摘も。
「国立がん研究センターの研究によると、1週間当たりの朝食接種回数が0〜2回の人は、毎日食べている人と比べて、1.36倍、脳出血のリスクが高くなるとされています。脳出血の要因に高血圧があり、朝食抜きにより、空腹によるストレスから朝の血圧が上昇しやすくなると考えられます」
また、朝食抜きによりお腹が空くことで、昼食後や間食時に血糖値が急上昇しやすくなります。それが肥満につながり、糖尿病、動脈硬化、そして脳卒中や心疾患へとつながることになるため、リスクが大きいといいます。
女性は体脂肪の減らしすぎもNG
50代以降のダイエットでは、女性の体脂肪の減らしすぎにも注意が必要です。
「健康的とされている体脂肪率の基準値(女性は20〜29%)を切ってしまうと、体に悪影響が出て、むしろ健康を損なってしまうことがあるからです」
その背景には、女性特有の事情があります。
骨粗しょう症のリスクが上がる
「やせすぎにより、女性ホルモンのエストロゲンが減少します。閉経後の女性において、エストロゲンの生成と分泌に大きな役割を果たしているのは、実は脂肪細胞なのです。そのため、閉経後に体脂肪が極端に減ると、エストロゲンが激減してしまいます。
その影響はさまざまありますが、特に注意が必要なのが、骨の健康。エストロゲンが減ると骨からカルシウムの流出が増え、骨粗しょう症になりやすくなります」
骨の健康を保つためにも、50代女性のやせすぎには注意が必要です。
糖質制限ダイエットの問題点
ごはんやパンなどの炭水化物を摂らないようにする「糖質制限ダイエット」にも注意すべき点があるといいます。

リバウンドしやすい
「すぐに体重が減りやすく、多くのかたに支持される糖質制限ダイエットですが、リバウンドしやすいという大きな欠点を持っています。
実践する間は血糖値が上がりにくいので満腹中枢が刺激されず、ストレスを感じやすいために長続きしにくいことが一つ。さらに、糖質制限をしばらく続けていた人が普通にご飯を食べはじめると、糖質がどんどん水の分子を取り込んでグリコーゲンになろうとするのでリバウンドしてしまうのです」
糖質不足は筋肉のたんぱく質代謝にも影響を及ぼすため、炭水化物をとらなくなると筋肉量が減り、基礎代謝が落ちることで、「太りやすく、やせにくい体」になってしまうそうです。
50代の心身に及ぼすリスク
50代以降は精神面でもリスクが大きいと森さんは指摘します。

「炭水化物を抜くと頭が働かなくなったり、イライラしたりします。主食を我慢することで精神状態が不安定になるため、更年期障害が重くなったり、睡眠の質が落ちたりもします。
炭水化物を我慢することで脂質が多いおかずの量が増え、中性脂肪やコレステロールが上昇しやすくなってしまいます。また、食物繊維も不足しがちで、便秘にもなりやすい。健康第一の50代のダイエットを考えたとき、リスクがあまりにも高いと言えます」
糖質制限ダイエットを実施する際には、管理栄養士やトレーナーなどの専門家の指導のもと、必要な栄養素やエネルギーを摂取して運動しながら行うことが肝心です。
◆教えてくれたのは:管理栄養士、日本抗加齢医学会指導士・森由香子さん

東京農業大学卒業、大妻女子大学大学院修士課程修了。医療機関での栄養指導、食事記録の栄養分析、ダイエット指導、フレンチの三國清三シェフとともに病院食や院内レストラン「ミクニマンスール」のメニュー開発、料理本の制作などを経験。抗加齢医学会指導士の立場からは〈食事からのアンチエイジング〉を提唱し、独自の食事法の普及に努めている。著書多数。2023年1月、『一生、元気でいたければ 50歳からは「食べやせ」をはじめなさい』(青春出版社)を出版。https://moriyukako.com/