豊かなキャリアを築いてきた横浜流星
藤井監督とはこれまでにもたびたび仕事を一緒にしてきた横浜さん。“長編映画”という意味では、この『ヴィレッジ』こそが“本格タッグ”といえるのかもしれません。手がけてきた作品群がバリエーション豊かな藤井監督と同じように、横浜さんもまた豊かなキャリアを築いてきました。特にここ数年はその振れ幅の大きさが顕著でしょう。
昨年はメインキャストの1人として参加した映画が4本も公開。マンガを原作とした『嘘喰い』で非現実的な人物を演じたかと思えば、『流浪の月』ではDV気質の心の弱い男性を。続く『アキラとあきら』では苦悩する大企業の御曹司をクールに演じ、『線は、僕を描く』では水墨画との出会いによって孤独な青年が新しい世界に踏み出していくさまを瑞々しく体現していました。
「とにかく陰鬱」な姿
本作で横浜さんが見せる顔は、これまででもっとも多彩で複雑なものだと思います。
予告やポスタービジュアル、場面写真などから、かなりダークな作品を想像しているかたが多いのではないでしょうか。たしかにその通り。人間の負の側面にフォーカスした本作は、終始まがまがしさに満ちています。横浜さんの演技はこれらすべてを象徴するように、とにかく陰惨です。
しかし、父の罪を背負い、母の借金返済のためだけに生きているような人間の優には、ある転機が訪れます。そしてこれを契機として、横浜さんの演技も真逆のものに変化。虚ろな表情にはハリが出て、気だるい雰囲気はハツラツとしたものへと変わります。
いや、“真逆”というのは適切な表現ではないかもしれません。たしかに彼はまるで違う人間へと変わるのですが、彼の背負う業までが変わるわけではない。ふとした瞬間の横浜さんの声色や語調、表情や瞳に意識を向けていると、かすかにブレているのが分かります。つまり彼は、人間の生まれ変わるさまと同時に、決して消えはしない後ろ暗さまで表現してみせている。「これぞ横浜流星」というものを、この『ヴィレッジ』に刻んでいるのです。
2025年放送の『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』(
多くの示唆と批評性に満ちた映画
さて、ここまで物語の核心には触れずにきましたが、未見のかたは本作に対して「ダーク=暗い」という以外にどんな印象を抱いたでしょうか。
サスペンスフルな作品のため、多くの観客が緊張し、恐怖しながらスクリーンと対峙することになるはずです。けれども筆者は劇中で描かれる村に対し、宣伝うたっているような「この村やばすぎでしょ」などとは思いませんでした。なぜなら、私たちの生きている社会とほとんど同じように感じたからです。
“村”という閉鎖的なコミュニティ性をはじめ、『ヴィレッジ』は多くの示唆と批評性に満ちた映画です。まさにいまの日本の社会の縮図。あなたはそこに、何を見るでしょうか。
◆文筆家・折田侑駿
1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun