
40〜50代の更年期女性のなかには「便がすっきり出ない」「便が細い」といった残便感を訴える人は少なくありません。「お通じの悩みは生活習慣の影響が大きい」と語る、漢方薬にも詳しい管理栄養士の小原水月さんに残便感の原因や生活の悪習慣、症状の改善によいとされる食材や漢方薬について教えてもらいました。
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更年期は残便感に悩みやすい
残便感は便秘の一種で、排便したにもかかわらずお腹がすっきりしない状態をさします。残便感の原因のひとつには、腸の動きを調整している自律神経が更年期による女性ホルモンの減少によって乱れることがあります。
また、偏った食生活や不規則な生活リズム、睡眠や運動不足など生活習慣の乱れも、自律神経のバランスが崩れることにつながり残便感の原因になります。

残便感は大腸がんやポリープなど、病気が原因で起こることもあります。厚生労働省「令和3年(2021)人口動態統計(確定数)」(https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei21/dl/11_h7.pdf)によると、令和3年の女性のがんによる死亡数の中でも大腸がん(結腸の腫瘍、直腸S状結腸移行部および直腸の腫瘍)が1位となっており、50代から罹患率が増える傾向にあります。
大腸がんは初期症状が乏しいため放置されやすく、気がつかないうちに病状が進行する場合もあります。ただの残便感と軽んじず、不安がある場合は自己判断せずに消化器内科を受診しましょう。
すっきり便を目指す生活習慣のポイント
便意を感じたら、なるべくすぐにトイレに行く習慣をつけましょう。便意を我慢して、便意が消失すると、便が腸にとどまる時間が長くなり、水分が吸収されて硬くなります。すると、排便しにくい状態となり、残便感を感じやすくなるのです。
便が出やすい姿勢を意識する
現代では洋式トイレを使うことが多いですが、その際に、ひざをへその高さまで上げた前傾姿勢をとると直腸から肛門までの角度が緩やかになり、排便がしやすくなります(図参照)。かかとを上げて高さを出すか、トイレに踏み台を用意しておくといいでしょう。

他にも、生活習慣を見直すことで残便感のないすっきり便を目指せるのでポイントを紹介します。
体内時計を意識した生活習慣
腸の動きを調整している自律神経は、体内時計の影響を大きく受けます。人の体内時計は約25時間サイクルのため、1日24時間の生活サイクルとはずれが生じます。このずれは「朝日」と「朝食」でリセットすることが可能なので、「朝日」を部屋に取り込んでから「朝食」を摂り、ずれた体内時計をしっかりとリセットして自律神経の乱れを防ぎましょう。
起床直後に2500 ルクス(照らされる面の明るさ)以上の光を浴びると脳にある体内時計がリセットされるといわれています。家庭用の照明では約75〜1000ルクス程度しかないため、体内時計をリセットするには不十分です。朝起きたらまず、カーテンを開けて太陽光を部屋の中にとり入れましょう。

さらに、朝食を摂ることで内臓や筋肉などの末梢にある体内時計もリセットできます。朝食を摂ると胃が動き、連動して腸も動く胃結腸反射が起こりますが、これも排便の助けとなります。食欲がないときも、温かい味噌汁やスープなどの汁物だけでも食べるようにして、胃や腸を刺激する習慣をつけることも大切です。
水分をたっぷり摂る
便は70〜80%が水分のため、体の水分が不足すると便が硬くなって排便がしにくくなり、残便感を感じやすくなります。
体内の水分は食事から40%、飲み水から48%、体内で作られる水が12%で構成されています。(厚生労働省『「健康のため水を飲もう」推進運動』https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/topics/bukyoku/kenkou/suido/nomou/index.html)
1日3回、主食・主菜・副菜をそろえたバランスのよい食事とこまめな水分補給を心がけ、十分な水分が体にとり入れられると、便が硬くなることを防ぐことができます。朝ごはんを抜くなど食事の回数が減ると、食事から摂り入れられる40%の水分も減ってしまうので注意しましょう。
便通の改善に効果的な食材
残便感の解消に有効な食べ物は、水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方が含まれる高食物繊維食材のグリーンピースです。

水に溶ける水溶性食物繊維と水に溶けにくい不溶性食物繊維の2種類がある食物繊維ですが、いずれも胃や小腸で消化されずに大腸まで届きます。水溶性食物繊維には腸内の善玉菌を増やしたり、便を柔らかくしたりする作用があり、一方の不溶性食物繊維は便の量を増やして腸管を刺激し、腸の運動を活発化させ、便通を整える働きがあります。
しかし、水溶性食物繊維ばかり摂取すると下痢を引き起こし、体に必要なミネラルが排出されてしまう可能性があります。また、不溶性食物繊維ばかりの摂取は便を硬くさせ、スムーズな排便の妨げとなり、残便感を引き起こす可能性があります。

そのため、食物繊維は水溶性食物繊維と不溶性食物繊維の両方をバランスよく摂ることが大切です。水に溶けやすい水溶性食物繊維に配慮して茹で時間を短めにしたり、味噌汁やスープなど煮汁ごと食べたりすることで効率的に両方の食物繊維を摂取できます。
残便感の解消に試したい漢方薬
残便感に悩んでいる人は漢方薬を服用してみるのも選択肢のひとつです。
残便感は、更年期による女性ホルモンの減少やストレス、冷えによる自律神経の乱れによる腸の働きの低下や、水分不足による便の乾燥が原因で起こると考えられています。
その改善には、「自律神経のバランスを整えて腸の動きを正常化する」「体を温めて腸の動きをよくする」「便の水分バランスを整える」「たまった老廃物を排泄する」などの働きをもつ生薬を含む漢方薬を選びます。また、症状の改善だけでなく心身の不調の根本改善を得意とする漢方薬は、繰り返す更年期の残便感に困っている人におすすめです。

残便感の悩みに役立つ漢方薬2つ
・麻子仁丸(ましにんがん)
腸をうるおし、便の水分バランスを整えます。便をやわらかくすることでスムーズな排便を促す漢方薬です。体力があまりなく、コロコロしたウサギのフンのような便が出る人や、お腹のハリなどの症状がある人に用いられます。
・桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)
腸の過剰なぜんどう運動(腸の内容物を押し出す運動)や緊張を抑えて、腸の動きを正常化する漢方薬です。体力があまりなく、お腹のハリや腹痛、下痢や便秘気味の人に用いられます。
漢方薬を始めるときの注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれたのは:管理栄養士・小原水月さん

おはら・みづき。管理栄養士。ダイエット合宿所、特定保健検診の業務に携わりのべ600人以上の食事と生活習慣をサポート。自身が漢方薬を使用して体調回復した経験から、栄養学と漢方を合わせたサポートを得意とする。あんしん漢方(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)などで執筆中。