
体形や健康を意識して、あぶらっこい料理を避けている女性も多いと思います。しかし、実は男性より女性のほうが脂質を摂りすぎているのだそうです。その背景には、無自覚なあぶらの摂取や近年流行している糖質制限ダイエットがあると医学博士の岡部正さんは言います。『脂質中毒 脳は「油」を欲するようにできている』(アスコム)の著者でもある岡部さんに、女性にありがちな脂質中毒の原因や糖質制限ダイエットの関連性について教えてもらいました。
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女性に脂質中毒が多い理由とは
脂肪を摂りすぎている男性は35%であるのに対し、女性は44%と女性のほうが脂肪を摂りすぎているという2019年のデータがあります。岡部さんによると、女性と男性の食生活の違いにあり、揚げ物などの食事を避けていても、間食を好む女性はお菓子やスイーツからあぶらを摂取していることが多いのだそうです。
「食後のデザートに、お茶請けに、空いた時間についつい、甘いものに手を伸ばす女性はたくさんいます。世の中の女性の多くは、カロリーや糖分ばかりを気にしています。しかし、洋菓子、ケーキ、アイスクリーム、調理パンや菓子パンなどには、大量のあぶらが添加されています」(岡部さん・以下同)
あぶらを毎日食べていないから大丈夫だと思っている人も危険!
岡部さんによれば、必要以上に脂質を摂ってしまい、脂質の摂取をやめたくてもやめられない状態を「脂質中毒」といいます。間食に甘いものを食べているうちに、いつしか脂質中毒になっていた、ということがよくあるそうです。甘いものがどうしてもやめられないという女性は砂糖中毒だけでなく、脂質中毒になっている可能性もあります。

「脂肪分を生地に練り込んだり、脂肪分を生クリームに投入したりすると、砂糖の量が多くなくても、まろやかな甘みを感じ、とてもおいしくなります。お菓子屋さんも商売ですので、あえて癖になるように、あぶらの量を調整していることも多い。つまり、甘いものがやめられない方は単純な砂糖中毒ではなく、そこに脂質中毒の要素も混ざっている可能性が高いのです」
糖質制限ダイエットによって脂質中毒になっていることも
糖質(炭水化物)を食べることを控えて、脂質やたんぱく質でカロリーを補うことで減量を目指す糖質制限ダイエットが流行っています。しかし、炭水化物を減らし、肉や魚、卵の量を増やす食生活が脂質の摂りすぎにつながり、脂質中毒になってしまうケースも増えているのだそうです。
「糖質制限ダイエットを全否定するつもりはありませんが、聞きかじりで極端なことをするのは極めて危険です。医者や専門家の指導のもと、きっちりと行うことを推奨します」
アプリを活用して、脂質管理を
遠ざけていても、気づかぬうちに摂取してしまい、知らず知らずのうちに中毒になってしまうあぶら。あぶらの摂取量を意識し、適量を摂るために、岡部さんはアプリの使用をすすめています。

「最近は食事を管理するアプリがたくさん開発されています。食事の写真を撮るだけで、どんな栄養素を摂取したか、1日に必要な栄養素などを表示してくれます。そういったツールを利用しながら、自身の栄養管理をしてみてください」
脂質中毒を抜け出すことで美肌にも
食生活を改善し、脂質中毒を抜け出すことは、美肌にも大きな効果があると岡部さんは話します。脂質を過剰に摂ると、皮脂の分泌が促され、肌荒れや吹き出物が増える原因になります。つまり、高脂質の間食をやめるだけでも肌質の改善効果があるのだそうです。
肌の不調に悩んでいる人は揚げ物や洋菓子などに多く含まれる飽和脂肪酸の摂取を減らし、抗酸化作用のあるEPAやDHAを含む青魚、腸内環境を整える発酵食品、良質なたんぱく質や大豆イソフラボンが摂取できる大豆製品を食べるようにするのがよいでしょう。

「極端なダイエット法では美肌は保てません。摂取カロリーを極限まで減らしたり、まったく糖質を取らなかったりするような過激な食事制限では、肌の新陳代謝を促すことができないからです。極端に脂質を減らしても、カサカサの乾燥肌になってしまいます。脂質に注意を払いながら、バランスの良い食事をとることで、美肌を保つことができるのです」
◆教えてくれたのは:医学博士・岡部正さん

おかべ・ただし。岡部クリニック院長。慶應義塾大学医学部卒業。カナダ、カルガリー大学留学。亀田総合病院副院長を務めたのち、オーダーメイド医療を理想に、東京・銀座に岡部クリニックを設立。専門医として生活習慣病の予防と治療に長年携わる。日本病態栄養学会評議員、日本糖尿病学会認定専門医・指導医、日本肥満学会会員。著書に『脂質中毒 脳は「油」を欲するようにできている』(アスコム)など。