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薄井シンシアさんの仕事術「会社のツールはすべて使う」ホテル勤務時代に実践した チャペルの意外な活用アイディア

職場のツールはすべて使う

それなら双方の問題を解決するために、パッケージの食事を会議室で無くレストランで取ってもらえばいい。私が勤めていたホテルには12か所のレストランがあったので、「初日は中華、2日目は和食、3日目はステーキでいかがでしょうか?」とお客さまに提案しました。

眺めのよい最上階のビュッフェで食べた翌日は日本庭園。最終日はステーキを食べるとなれば、魅力的な商品ですよね。「あのホテルに行けば3日間いるだけで、いろんなご飯を食べられる」とよい評判も広がるでしょう? お客さまの反応もよかったし、私を指名するリピーターも多かったです。

私は、職場のツールをなるべく全部使いたい。普通の営業担当は、受け付けた予約を「宴会」「会議」と振り分けてから、必要なサービスを考えます。でも私はホテル全体で提供できるツールを考えてから、目の前のお客さまに最適なものを提示します。

大きい組織ほど、他の部署に興味が無い

社食で知り合いが出来れば、「ちょっと、ここを使いたいんだけど空いていますか?」と直接、相談しに行けるじゃないですか。この部署では何ができて、何ができないか。なぜできないのかという理由まで把握することは、仕事をする上でとても重要です。

薄井シンシアさん
部署と部署のコラボレーションがあってこそ成功するというシンシアさん
写真6枚

営業の仕事はパッケージを売ったところで終わりだけど、私は現場にも足を運びます。団体のお客さまが来るときはホテルの入り口へ行き、ベルボーイと話しながらバスを待つ。そうすれば、「バスが来た時の駐車スペースが狭くなる 」などの課題も見えてきます。

組織は大きければ大きいほど、自分の部署ばかり見て、他人の部署に興味を持たない人が増えます。でも私は、そう考えません。やっぱり組織だから、部署と部署のコラボレーションがあってこそ成功する。そうじゃないと、大きな組織へ入る意味がないじゃない?

職場で足を引っ張る人がいたら? とにかく無視。無視して帰宅して、よく寝て終わり。私は邪魔をされたぐらいではあきらめません。次の手段を考えます。

ウエディングチャペルで三味線コンサート?

あるとき、お客さまから「三味線のコンサートを開きたい」との相談を受けましたが、その日はすべての部屋が埋まっていました。唯一、空いているのは結婚式用のチャペルだけ。

そこでチャペルを見に行ってみました。すると室内は教会風の作りではなく、ただ座席が並んでいるだけ。「これなら前方に舞台をつくればコンサートを開けるじゃん!」と思って、宴会担当に「チャペルで三味線のコンサートをやりたいんだけど、前方の飾り付けには、どれぐらいの費用がかかりますか?」と たずねました。宴会場の支配人も「いいよ。〇〇円ぐらい出せば和風に装飾できるよ」と言ってくれました。

薄井シンシア
チャペルを活用したことも
写真6枚

でも、自分の部署へ戻り、部長に「このチャペルでやります」と報告したら、「そこは結婚式用だからダメだ」と断られました。なんでダメなの? お客さまが「よい」と言っているのに、なぜ部長が止めるんですか?

私は「結婚式場の部長に話しに行きましょう」と、結婚式場の部長の元へ説明に行きました。すると先方は「どうぞ。使えますよ」と言ってくれました。平日に結婚式があるわけがないし、お金を稼げるチャンスなのに、どこに問題があるのでしょうか。

見積書を手に総支配人へ直談判

次に見積書を持って総支配人のところへ行きました。「売り上げはこのぐらいで、利益はこれぐらい。どうでしょうか? 決断してください」と迫ると、総支配人も「じゃあ、やってください」と了承しました。

営業担当の部長に「総支配人が『やってよい』と言ったのでチャペルでやります」と伝えたら、さすがに部長も何も言いませんでした。その結果、60人ぐらいのお客さまを招いたコンサートは成功し、 反応もすごくよかったです。全員に座席があったし、舞台は和風にしつらえてあるし、元々が結婚式場だから音響もよいし。

私の上司は前例がないからできないと思い込んでいたのです。でも私が成功して以降は、あれだけ反対していたほかの同僚たちも「なるほど使っていいんだ」「薄井さんが使えたなら、私たちも使おう」と、チャペルを普通の会議に使うようになりました。

◆薄井シンシアさん

薄井シンシアさん
薄井シンシアさん
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1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社し、イベントマネジャーとして活躍中。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia

構成/藤森かもめ

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