根強いファンが多いアニメの名作から日米それぞれの青春もの、実在するキューバ音楽のバンドを取り上げたドキュメンタリー映画まで──。今なお厳しい残暑を乗り切るために、ライターの田中稲さんが提案するのは、“熱い”映画音楽をBGMに過ごす逆転の消暑法です。
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8月夏本番、「暑い」を通り越しもはや「熱い」。お盆を過ぎれば涼しくなるかも。そんな期待を胸にウェザーニュース(https://weathernews.jp/s/topics/202306/190215/)を開くと、無情にも、端から端まで真っ赤(平年よりも高いという表示)な日本地図がドーン! 「9月も残暑が厳しい」という小見出しにヒーッ……。
クーラーをつける、冷えピタを貼るなど、フィジカル面の対処だけでは足りない。メンタル面でも対処が必要だ。やはり音楽は強い味方。大好きなアーティストの曲をガッツリ聴くのとはまた別で、この暑さをドラマチックに思わせてくれるような映画音楽をBGMに流しておきたい。聴けば大きなスクリーンの一場面が思い浮かぶような壮大さがあるし、自分が主人公のような気分にもなれる。
ということで、いそいそと「猛暑をやり過ごすための映画音楽プレイリスト」を作ることにした。王道の曲が多いので、ぜひ一緒に聴きましょう。再生ボタン、オン!
炎天下でも元気が出る『サマーウォーズ』のテーマ
いの一番に聴きたいのは、映画『サマーウォーズ』(監督:細田守、2009年)のメインテーマ『The summer wars』。主人公の高校生・健二(神木隆之介)や長野県上田市にある旧家(陣内家)の面々が、仮想空間(バーチャル)でのつながりと、田舎の親戚づきあい(リアル)のつながり、両方をおおいに活用し、混乱から世界を守る物語だ。陣内家の栄おばあちゃん(富司純子)が「あんたならできる。できるって!」と相手を電話で励ますシーンは日本アニメ史上屈指の名場面と言っていい。
この映画は、音楽の素晴らしさが映像の美しさをグッと引き立てている。『The summer wars』の目の前に青空がブワッと広がるようなオープニング、心が前に進んでいくようなパーカッションは、聴いているだけで心が奮い立つ。私も炎天下の営業で、何度この曲に助けられたことだろう。「私ならいける。いけるって!」と心の中で呟き、歩き回る元気が出てくるのだ。不思議なほどに!
作曲は松本晃彦さん。映画化もされたドラマ『踊る大捜査線』のオープニングテーマ『Rhythm And Police』もこの方である。誰しもの心にデフォルトで設置されている「テンションブチ上げスイッチ」の入れ方をご存じとしか思えない。クッ、アガる!
イントロだけで冒険が始まる『スタンド・バイ・ミー』
さて、夏といえば秘密の冒険。続いては、忘れちゃならない『スタンド・バイ・ミー』(監督:ロブ・ライナー、1986年)である。子どもから大人に変わる思春期の少年4人の死体探しの旅。♪ボンッボン・ボボボンッ……というベース音が聴こえるだけで、線路沿いに歩く仲良し4人組の背中が見えてくる。さらに、(4人組の1人を演じた)坊主頭のリバー・フェニックスの仏頂面、木の上に作った秘密の家、むせ返るような雑草の匂いまでも!
イントロで一気にこれだけの情報量が来るものだから、どうしても声に出して「ウェンザナイッ(When the night)!」と歌いたくなってしまうのだ。そのため電車では聴けない……。
夏の冒険といえば、『菊次郎の夏』(監督:北野武、1999年)も外せない。ビートたけし演じる遊び人の中年男と、生き別れた母親を探す小学生、2人のロードムービー。頻繁に流れるメインテーマ『summer』の存在感は主役級。いっそこの曲を擬人化して「3人のロードムービー」とカウントしたくなるくらいだ。
作曲は久石譲さん。彼の音楽は本当にノスタルジィと仲良しだ。川のせせらぎとか、びっくりするほど星がたくさん瞬いている夜空とか、キラキラと輝くビー玉とか、歌詞がなくても浮かんでくる。いつも見ている風景が100倍きれいに見え、それが少し怖くもなったりした、夏休みの開放感を思い出す。