ドラマ『WATER BOYS』テーマ曲の爽快さは「ある意味発明」
夏休みは部活動に夢中だったという人も多いだろう。私が大好きだったのが、田中麗奈さんのデビュー作『がんばっていきまっしょい』(監督:磯村一路、1998年)で、愛媛県松山市を舞台に、高校ボート部の青春と挫折をテーマにした映画だ。
主題歌『オギヨディオラ』は、川のゆったりとした流れがそのまま歌になったような聴き心地である。疲れたときに聴くと、ストレスがふーっとどこかに行く。作詞作曲歌唱は、韓国出身の女性シンガーソングライター・リーチェ(本名:イ・サンウン)さん。「オギヨディオラ」は韓国の、船頭さんが船を漕ぐときのかけ声なのだそうだ。
この映画と同じプロデューサーチームで作られたのが、妻夫木聡さんを主演に迎え、男子高のシンクロナイズドスイミング部の青春を描いた「ウォーターボーイズ」(監督:矢口史靖、2001年)だ。
この作品が大ヒットし、2003年に山田孝之さん主演のドラマ版『WATER BOYS』シリーズ(2003〜2005年)も作られた。ドラマ版のメインテーマ『シンクロ BOM-BA-YE』は、水しぶきを思わせるクラップ音から始まり鐘の音が美しく鳴り響く、まさに青春スプラッシュなメロディ! この爽快さはある意味発明。聴くと、映画とドラマで感じた、夏の日差しとプールの香り、そして全力で何かに打ち込む尊さを思い出すのだ。
作曲は佐藤直紀さん。アニメ『ふたりはプリキュア』シリーズの音楽も担当してらっしゃるので、親子でお世話になったという人も多いだろう。
むせ返るような熱さを堪能するなら『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』
いやいや、夏は子どもや学生だけのものじゃないぜ。暑いときにこそシガーをくわえ、煙と情熱をいっしょに吸うのサ——。そんな余裕と色気をお持ちの方には、アメリカのミュージシャン、ライ・クーダーとキューバの激シブ老ミュージシャンのセッションを記録したドキュメンタリー映画『ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ』(監督:ヴィム・ヴェンダース、1999年)のサントラがオススメだ(YouTubeのレーベル公式チャンネルで視聴可能)。
このサントラを聴けばアラ不思議、熱風と埃と日差しが自分の友達みたいに感じてくるから凄まじい効果である。時間がない方は、『chan chan』『candela』の2曲だけでもぜひ! この暑さをエネルギーとパッションに変えてやるぜ、という不敵な笑顔が自然と浮かぶから。もちろん気分だけなので、水分補給は必要なのだが。
夏の映画の名曲を聴き、別にやる気にまでつながらなくとも、「暑いのもまあまあ悪くない」と思えたら、それだけでしめたもの。映画音楽たちは「オッケーオッケー、この夏の主役はどう転んでもあなたなので!」とでっかいスケールで励ましてくれるはずだ。
◆ライター・田中稲
1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka
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