ネガティブフィードバックは、厳しいことを効果的に伝えて相手の行動変容を促すもの。それを成功させることで、部下などを成長させることができます。そのために5つのスキルセット(個人の能力や資質、経験などの組み合わせ)があると話す『ネガティブフィードバック 「言いにくいこと」を相手にきちんと伝える技術』(アスコム)を上梓した、人事コンサルタントの難波猛さんに詳しく聞きました。
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ネガティブフィードバックには「伝える技術」が必要
ネガティブフィードバックでは、伝える側の自己満足で終わらせないことが大切です。いくら伝えるべきことを正しく伝えたつもりでも、部下の行動が変わらなければ意味がありません。「変わるためには、ある程度の時間と労力、そして正しい『伝える技術』が必要です」と難波さん。その「伝える技術」とは、5つのスキルセットであると難波さんは言います。
「スキルセットは、相手の心理状態に合わせた行動変容のアプローチです。厳しいことを伝えられた相手の心理状態に応じてうまく変化を促していくことを目的としています」(難波さん・以下同)
合意を得ながら面談を進める
1つ目のスキルセットは、「合意を得る」です。面談を行うことに始まり、面談でギャップについて話し合うことやギャップが存在していること、それを埋めるために改善していくことなどについて、それぞれ部下と合意を取りながら面談を進める必要があります。
例えば、部下に厳しいフィードバックをしなければならないときは、「これから耳が痛いことを伝えなければいけないですが、聞くモードになれそうですか?」などと問いかけ、面談を始めることから合意を取りましょう。
「合意を取らずに騙し討ちや不意討ちで厳しいフィードバックをすると、相手は身構えていない状態でその話を聞くことになります。文字通り、『耳が痛いこと』を『寝耳に水』で聞かされる状態です。そのため感情的になる可能性が高く、その後にどんなに理論的にフィードバックしても、まったく刺さらなくなります」
認知的不協和を創る
2つ目のスキルセットは、「不協和を創る」です。厳しいことを伝えると、部下側の「これでいい」という自己認知と、上司側の「それではダメだ」という他者認知に矛盾が生じ、部下側は「認知的不協和」を抱きます。不協和の放置は本人にとって不快感があるため、その矛盾や違和感を解消するために、何らかのアクションを選択し、それが次のアクションにつながるきっかけとなります。
「部下を気遣って不協和を与えないコミュニケーションを考えるのではなく、意図的に健全な不協和を創ることがネガティブフィードバックのポイントです。もちろん、わざと相手をイラッとさせる言い方をすすめるわけではありません」
面談はきれいに終わらせない
3つ目のスキルセットは、「無理に面談をきれいに終わらせない」です。ネガティブフィードバックは、部下と良好な関係を維持したいと考える上司側にも認知的不協和を生じさせるため、部下が「はい、わかりました」とあっさり受け止めると、上司としては肩の荷が下りたような気持ちになるでしょう。
しかし、そのような場合は「『物わかりがいい』ではなく、『何も伝わっていない』可能性があります」と難波さん。ネガティブな話をするときほど、「これから頑張ろう」とお互いにハッピーな状態で面談を終わらせたがりますが、1回目のネガティブフィードバックは無理にハッピーで終わらせなくてもいいと言います。
「面談を一見ハッピーエンドで終えたほうが効果は持続しそうな気がしますが、実は積み残しがあるほうが、相手の心理には長く残ります。面談も、最後の数分で無理やりまとめるより、相互理解が不十分だと感じたら『次回までに、この問題を検討してください』と宿題を出して継続したほうが、部下はじっくり問題に向き合う可能性があります」
話すより聴く
4つ目のスキルセットは、「話すより聴く(傾聴)」です。フィードバックと聞くと、うまい伝え方や言葉の選び方などを意識しがちですが、実は伝えること以上に相手の話を聴くことが重要。面談の目的や発生しているギャップなど、必要な情報を伝えた後は、部下の言い分を耳と心を傾けて聴くことに徹しましょう。
「一般的に、2~3分上司側が沈黙していたら、部下は『ここは自分が話さないと終わらない』と認識して必ず相手が話し始める瞬間が訪れます。そして、部下が話し始めたら、『どんなにズレた発言や身勝手に思える言い分でも、遮らずに最後まで徹底して聴く』ことが何よりも重要です」
一定期間見極め、成果が出なければあきらめる
5つ目のスキルセットは、「あきらめる(明らかに見極める)」です。行動計画が決まったら、一定期間本気で向き合うことが重要ですが、ネガティブフィードバックの効果は100%ではありません。どれだけ上司が頑張っても、部下が努力しても、組織が期待する水準まで変化できない部下は一定割合で発生します。
見極めに適切な期間として、難波さんは3~6か月を推奨しています。その期間で改善が見られなかった場合に起こる可能性のあることはあらかじめ伝えておき、その期間で改善できなければお互いのためにあきらめることも重要です。
「この期間で行動変容が起こるのが望ましいですが、3~6か月で行動や成果が変わらなければ、部下に対する期待値や役割を下げるしかありません。配置転換したり、ジョブグレードを下げたり、場合によっては降格や降給なども含まれます」