私たちの不調や病気を治してくれる医療。白衣を着た医師から「この薬をのんでください」「この手術をやりましょう」と言われたら、何も疑うことなく、その治療を受け入れるだろう。しかし、医師が心の内では“自分だったら受けない”と思っていたら──その現役医師たちが匿名座談会だからこそ言える本音を語りつくした。語ってくれたのは、内科クリニックの院長のA子(50代)、乳腺科・婦人科のクリニック院長のB美(40代)、がん専門病院勤務の医師のC夫(40代)、大学病院外科医のD代(50代)の4人だ。【全3回の第1回】
抗生物質はウイルス感染のかぜには効果がない
急激な寒波とともに、かぜやインフルエンザの流行シーズンが到来し、薬不足が問題視されている。そんななか、2024年11月にジェネリック医薬品の8734品目中、4割を超える品目に製造過程における不備が発覚。
品質や安全性に影響はないというが、ジェネリックでは過去に死亡事故も起きており、医療関係者からは「やっぱりまた起きたか」「個人ではジェネリックを使わない」との声が聞こえてくる。 まず、4人が本音を吐露したのは薬の話だ。
A子:冬になるといつも思うのですが、“かぜの治療法は存在しない”のに薬を求めてクリニックに来る人が多い。かぜを治す薬はないし、寝ていれば自然と治ります。抗生物質を出してほしいという人もいますが、抗生物質は細菌を殺す薬なのでウイルス感染のかぜには効果がありません。納得してもらえない患者さんもいて、困ることがあるんですよね。
B美:それは、いまの医師の間では常識ですけど、いまだに抗生物質を処方する“時代遅れの医師”はいますよね。この前、夫の実家に行ったら、かぜの症状で近所のクリニックに行った義父が、かかりつけ医から抗生物質を処方されていてびっくりしました。
C夫:かぜ薬って症状を緩和するためのものでしかないから、処方薬、市販薬を含めて総合感冒薬はのみたくない。
いろんな症状に幅広く効果を出すために、解熱鎮痛剤や鼻炎止めなど複数の薬が配合されているから、不要な薬も体内に入れることになる。くしゃみや鼻水を抑える「プロメタジンメチレンジサリチル酸塩」はいろんなかぜ薬に入っているけど、前立腺肥大や緑内障では禁忌ですし、高齢者の場合はせん妄を起こす可能性もある。のむなら、鼻・喉・熱など各症状をピンポイントで緩和する薬を選んだ方がいい。
D代:解熱鎮痛剤も高熱が出たときだけ使うならいいけれど、痛み止めとして安易に処方する医師もいます。私は、ちょっとした頭痛ではのみません。特にロキソプロフェンナトリウムに代表される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)はよく効く代わりに副作用も強い。頻繁にのむと腎臓にも負担がかかってしまう。安全だといわれるアセトアミノフェンも、過剰に服用すると重篤な肝障害を起こす可能性があります。
C夫:睡眠薬も驚くぐらい気軽にのまれているけど、特に高齢者にはリスクが高いことを知ってほしい。日本でよく処方されるベンゾジアゼピン系は依存性が高く、海外のガイドラインでは「高齢者の投与期間は4週間以内」と制限されている。長期間のみ続けると記憶障害や、楽しさ、苦しみなどの感情がなくなる可能性もある。認知症の発症リスクを高める可能性も報告されています。
「生活習慣病」は投薬よりも習慣の改善で対応できる
B美:生活習慣病の投薬治療って、どう思いますか? LDLコレステロール値が高いと動脈硬化が進行すると医師に言われて、のんでいる人は多いと思います。でも私自身はLDLが高めですが、長寿家系で祖母も105才で健在。心疾患の家族もいないのでのんでいません。
A子:LDLは“悪玉”といわれるけど、ビタミンDやホルモンを作るために必須の物質なので、薬で下げることばかりを考えるのはよくないと思いますね。B美さんのように家族歴がないのなら、LDLは生活習慣を改善して下げればいいと思います。
D代:高血圧や高血糖を含めた多くの生活習慣病って、薬を使わなくても改善しますよね。私がのみたくないのは、糖尿病治療薬のSU薬。安価なので財布に優しいけれど、低血糖を起こしやすく、転倒リスクがあります。
実際に高齢者が転倒して救急で運ばれてくるようなケースもあり、たとえば大腿骨を骨折するとそのまま寝たきりになるリスクが高い。すぐにでも薬の見直しを検討すべきだと思う。
C夫:薬をのまなくても生活習慣病を改善できるというのは賛成だけど、いわゆる“根性論の治療”は疑問です。例えば、痛風でビールが大好きな患者さんなら、ビールをがまんして薬を減らすよりも、薬をのんで適度にビールを飲めばいいと思う。人生はやっぱり楽しまないと意味がない。過剰な摂生や食事制限を設ける治療は嫌です。
注意すべき骨粗しょう症の治療
B美:骨粗しょう症の治療も注意すべきではないでしょうか。更年期以降の女性はリスクばかり注目されるけれど、骨の吸収を抑えるビスホスホネート製剤や抗RANKL(ランクル)抗体薬は、まれに顎の骨が壊死する症状が報告されています。
D代:確かに骨粗しょう症の薬は、長期にわたってのむだけに注意すべき。ほかに私が気をつけたいのは、ドナネマブやレカネマブなどアルツハイマー型認知症の薬。次々と承認されているけれど、あれもどうなのかと思います。脳浮腫や脳出血といった命にかかわる副作用まで報告されているから、新薬に飛びつくのは慎重になるべきです。
A子:昔から認知症の進行を予防すると処方されてきたドネペジル塩酸塩も、脳を活性化させる薬なので夜は眠れなくなるし、怒りっぽく攻撃的になる。認知症そのものは治らないので、使っている患者さんのご家族には中止するようにすすめます。当然、私自身も使いたくない。
(第2回に続く)
※女性セブン2025年1月2・9日号