
今年4月1日から、定年は「原則65才」に変わる。いまより5年も長く働かなければならないほど、年金財政はひっ迫しているのだろうか。高まり続ける年金不安を乗り越えるためには「年金を運用で増やす」以外に道はない。いちばんお得な年金の増やし方がわかった。
早くもらって自分で運用する
年金を増やす手段は2つ。第一の手段が、受給開始時期を遅らせる「繰り下げ」だ。1か月遅らせるごとに0.7%増額され、75才まで繰り下げれば、受給額は184%にまで増える。実質的に“国の運用で増やしてもらう”パターンだといえる。しかし、繰り下げすぎた結果、受給する前に亡くなったり、受け取れても自分の意思で使えなくなる可能性もある。年金受給を繰り下げるには、健康寿命を見極めることが重要なのだ。

一方、受給を早める「繰り上げ」では、1か月ごとに0.4%減額され、60才までの5年繰り上げると、受給額は24%も減らされてしまう。
繰り下げると健康寿命が立ちはだかり、繰り上げると受給総額で損しやすい──そこで選択肢に挙がるのが、第三の手段である「繰り上げ受給×運用」だ。ファイナンシャルプランナーの服部貞昭さんが言う。
「“早くもらって、自分で運用して増やす”という方法がいま注目され始めています。今後、さらに少子高齢化が進んだ場合、年金財政はより厳しくなる。私自身、もらえるうちに早くもらって、自分で増やそうと考えています」
現在、アメリカでは公的年金(OASDI)の受給開始年齢は66才だが、多くの人が62才まで繰り上げて運用で増やしているという。「年金博士」ことブレイン社会保険労務士法人代表の北村庄吾さんが解説する。
「アメリカが投資先進国であるのも理由の1つですが、日本との決定的な違いは運用利回り。アメリカ株の30年平均の運用利回りは10%で、複利運用ができればわずか6年で元手が倍になる計算です」
「60才繰り上げ×運用」のもっとも現実的なシナリオ
服部さんが【1】「60才まで繰り上げ受給して全額を新NISAで運用」、【2】「65才から受給」、【3】「70才まで繰り下げ受給」をシミュレーションした。
「60才からアメリカと同じように年間利回り10%で運用を続けられたとすると、65才の時点での『年金+運用』の資産総額は735万21円となり、70才では1961万3959円にもなります」(服部さん・以下同)
これに対し、65才から受給した場合の70才時点での受給総額は963万円と、差額は約1000万円にもなる。この時点で新規投資をストップしても、老後資金は充分。90才で亡くなると仮定し、それまでに資産を使い切ると考えても、70才からの20年間で毎年230万円も取り崩せることになる。

「【1】のパターンが【2】、【3】を上回るためには、少なくとも年3~5%ほどの利回りで運用する必要があります。日本株だけではこれほどの高利回りを維持するのは難しいですが、アメリカや全世界まで分散すれば、充分に可能といえそうです」
「60才繰り上げ×運用」のもっとも現実的なシナリオは、「60~65才までは働きながら受け取った年金をすべて投資に回し、65才で定年退職してからは、90才まで運用しながら取り崩す」というやり方だという。
「シミュレーションの結果、この場合の損益分岐点の利回りは1.65%と、意外にも低くなりました。
定年退職する65才時点で資産総額は約622万円。ここから90才までは、公的年金と合わせて、この資産を年間30万3000~30万7000円ずつ取り崩していくことができます。
さらに投資期間を延ばして70才まで投資すると考えると、年間利回りは1.99%を目指したい。70才時点での資産総額は1354万円となり、そこからは毎年81万4000~83万3000円を90才まで取り崩すことができます」
夫婦で運用すれば、老後資金に困ることはなさそうだ。新NISAで人気の「ニッセイ・インデックスバランスファンド(4資産均等型)」の過去5年間の平均利回りが9.35%であることをみても、かなり現実的といえる。
投資先に考えたい個人年金保険や4資産均等ファンド
大切な年金を全額、5年、10年と預ける投資先は慎重に選ぶ必要がある。新NISAでの高利率の運用だけでなく、北村さんは「個人年金保険」をおすすめする。
「年に8万円以上の掛け金なら、4万円が生命保険料控除の対象になり、比較的安全に積立運用しながら所得税と住民税を年間約6000円安くすることができます。元本保証の商品もあり、借り入れや途中解約も可能。新NISAや個別株は、その上で余裕があれば検討してください」(北村さん)

新NISAでは通称「オルカン(全世界株式)」や「S&P500」が注目を浴びているが、みんなが買っているから自分も買うという安易な投資行動は戒めたい。『50代から輝く! 「幸福寿命」を延ばすマネーの新常識』の著者で、日本経済新聞社コンテンツプロデューサーの田中彰一さんが言う。
「S&P500はアメリカの株式が100%の投資信託で、オルカンも6割以上がアメリカ株で、実質、外国株集中の運用といえます。“卵を同じかごに盛るな”という投資の格言の通り、リスクは分散させるのが賢い。
最適な運用資産の割合は、外国の株式と債券、日本国内の株式と債券に4分の1ずつの『4資産均等』で、この割合は過去45年間の長期運用で一度も元本割れしていない“無敗の法則”なのです」
ただし、定年後も投資したい場合や、もともとの収入や貯蓄が心許ない場合は要注意。
「投資はあくまでも、余剰資金で行うべきものです。生活費や緊急資金の準備ができていないのであれば、年金の全額を投資に回さず、10~30%程度にとどめること」(北村さん)
反対に、余剰資金があるなら、個別株に挑戦するのも選択肢の1つだ。
「口座からの自動買付で“ほったらかし”できるつみたて投資とは違い、自分で調べ、考え、選ぶ運用は世界の最前線とつながり続けられる点で、認知症予防にもなるはず。自分で工夫して分配金や配当金を半永久的に受け取れる“不老不死の資産”をつくることもできます。自ら学んでお金を増やす努力は、健康・お金・幸福の三兎を追うことにつながるでしょう」(田中さん)
高まり続ける老後の暮らしと、年金への不安―目に見える金額にだまされずに自ら動き出せる人だけが、豊かな老後を掴み取ることができるのだ。
※女性セブン2025年2月13日号