
夜空を彩る大輪の花の下、風情感じる打ち上げ音をかき消すように、救急車のサイレンが鳴り響いていた。7月26日、東京都墨田区で開催された『隅田川花火大会』には、延べ93万人が来場し、1733年から続く歴史ある日本の夏を堪能した。夜空に美しい光りと音が広がった一方で、地上は来場者で“すし詰め”状態。熱中症の疑いで救急搬送される人が相次いだ。

太陽が沈み、日中に比べると気温も下がる中で、なぜ熱中症患者が多数現れたのか。その原因は「人いきれ」にあるという。「人いきれ」とは、人が多く集まって、体から発せられる熱やにおいでムンムンした状態を指す言葉。横浜鶴見リハビリテーション病院院長の吉田勝明氏が解説する。
「人間の皮膚の表面温度は、おおよそ32~33度です。そんな人間が密集すれば、周辺の気温は上昇します。そのうえ、人の出す息や、汗の蒸発などによって湿度も上昇します。すると、熱中症につながる高温多湿の状況を引き起こします。
これがまさに『人いきれ』。人がすし詰め状態になるほど密集すると、熱中症のリスクはぐっと高くなるのです」
同様のことは、空調が効いた「屋内施設」でも起こり得るという。具体的には室内で行われるアーティストのライブやコンサートなどだ。吉田氏が続ける。
「屋外に比べればリスクは下がりますが、適切な設定温度になっていても、人が密集しているポイントでは温度が上がっていることがあります。冬や雨の日の満員電車をイメージするとわかりやすいと思います。車外の気温が低くても、嫌な温度や湿度になることはありますよね。加えて室内だと、風が吹かないぶん湿気が流されていかず、高温多湿な状態が継続することも考えられます」

一般的には夏の終わりにあたる9月や10月でも、体感温度が3〜5℃上がると充分に熱中症に警戒しなければならない温度になる。直射日光に当たらない場所や環境でも、人が集まる場であれば用心することが重要だ。
また、熱中症はすぐに症状に気づかない場合も多く、その間にゆっくりと進行し、深刻化してしまうこともあるという。
「特に楽しいイベントだと、気分が高揚し、症状にもなかなか気がつきません。気持ちが落ち着いた帰りの道中や帰宅後の自宅で、急にめまいやふらつきなどの熱中症症状が現れることも多いです」(吉田氏)

そんな時間差の熱中症も、帰宅後の対策で予防できるという。
「イベント後、涼しい室内に入ったとしても水分や塩分をしっかりと摂取し休養することで、初期症状であればある程度進行を抑えることが可能です。家に無事帰ってきても油断せず、意識的に対策することが大切です」(吉田氏)
「人いきれ」での熱中症を警戒しながら、夏の行事を楽しむことが重要だ。
