
短期集中対談「シーラ杉本宏之会長が女性トップランナーに聞く『未来の作り方』」第1回・前編
北海道・札幌のヨガスタジオから始まり、今年4月には女性社員99%の会社を東証グロース市場に上場させた株式会社LOIVE(旧・株式会社LIFE CREATE)代表・前川彩香さんと、民事再生という危機を経験しながらも、経営者として再び立ち上がり、いまや企業を成功へと導いている株式会社シーラホールディングスの代表取締役会長・杉本宏之さん。杉本さんを聞き手としてスタートした今回の対談は、互いにゼロから上場企業を築いた経験を持つからこそ、経営者としてのリアルな話が弾んだ。
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杉本:LOIVEが上場されましたね。おめでとうございます。今日は最初にこのお話をうかがいたいと思っていました。上場はやはり特別な瞬間だと思いますが、前川さんにとってはどうでしたか?
前川:正直、ホッとしました。でも「ここからが本当のスタートだ」という思いが強いですね。上場は社会に対する責任が始まる瞬間であり、ようやく社会に信頼を問われる立場になったと感じています。
杉本:そのお気持ち、よくわかります。上場はゴールに見られがちですが、1つの通過点にすぎないですよね。私自身、28才のときに最初に立ち上げた会社を上場したものの、30才で400億円の負債を抱えて民事再生するという挫折を経験しました。多くの人々に迷惑をかけ、それでもいまこうやって再度会社を立ち上げられているので、株主だけでなく社員やお客様に対して企業が背負う“信用の重み”は身にしみています。会社には、売り上げなどの数字だけでは見えない価値がある。それを守り続ける覚悟が必要です。
前川:はい。上場を選ぶのか、プライベートな会社として続けるのかを悩んだときに、上場の道へ挑もうと決めたのは、うちがパーパス(=存在意義)として掲げている「自分を愛し、輝く女性を創る」という思いをきれいごとで終わらせず、上場という社会性を持つことで、世の中に証明するきっかけになると思ったからです。杉本さんがおっしゃるように、上場には数字だけでは見えない価値がたくさんあると思っています。
杉本さん「一度きりの人生を悔いなく生きたい」──「9.11」をきっかけに
杉本:私自身、起業しようと思ったのは、2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件がきっかけでした。不動産業界で営業をしながらいつかは起業したいと思っていましたが、偶然会社の研修でラスベガスを訪れたときに、ちょうどニューヨークで世界貿易センタービルに旅客機が突っ込んだ。その映像を現地のテレビで見て、何とも言えないショックを受けました。そこから一度きりの人生だから後悔はしたくないと強く思い、その年の12月、24才で最初の会社・エスグラントコーポレーションを立ち上げました。前川さんはいつ起業しようと思ったんですか?
前川:私は15才のときで、まだ高校生でしたね。父親は会社員、母は専業主婦という普通の家庭でしたけれど、なぜか“18才までに自分の生き方を考えなければいけない”と考えていて、「将来は誰かの下で働きたくない」と思ったのが理由です。勝気な性格だったんでしょうね(笑い)。
杉本:前川さんとお話ししているとすごく自分の芯がある印象を受けますけれど、15才でそこまで考えるなんて、当時からかなりしっかりしていたんですね。
前川:でも20代で結婚して子供が生まれたのもあって、実行に移したのは2006年、28才のときでした。当時の夫からは「子供が3才になるまでは起業しないで家のことをしてほしい」と言われていたんですよ。そこで“じゃあ3才になったらすぐに起業しよう!”と準備をして、子供が3才になると同時に札幌で女性専用のホットヨガスタジオをオープンしました。
杉本:パワフルですね。なぜホットヨガ分野で事業をスタートしようと思ったんですか?
前川:当時、東京や大阪にはホットヨガスタジオがありましたが、北海道にはまだなかったので勝機があると考えました。ニーズはあるサービスなのに経営者が少なかったのは、お客様が女性が圧倒的に多いこともあり、男性の経営者が入りづらい領域だったのもあるかもしれません。私自身、もともとヨガの経験はなかったのですが、実際に始めてみるとスタッフもお客様もイキイキとしていて、「ここに来るともう一度頑張ろうと思えます」「元気が出てくる」という感想もいただいて、ヨガスタジオのように女性が心も体も元気になっていく場所を広げていきたいと思ったんです。

「社員99%が女性」仕事も家庭もあきらめない働き方
杉本:私自身は離婚経験がありますが、前川さんも離婚されていますよね。どうしても経営者として女性が働くのはハードというか、現実として女性経営者は少ない。シングルマザーで子育てもしながら全国展開まで持っていくために、どんなプランを描いていましたか?
前川:離婚したのは子供が10才のとき。確かに子育ては大変でしたけど、全国展開することは1店舗目をスタートしたときから決めていたので、3店舗目までは北海道、4店舗目は仙台、次は中国地方というふうにプラン通りに増やしていきました。
杉本:お子さんは北海道に?
前川:そうです。子供は札幌の学校に通っていたので、地方と札幌の自宅マンションを行き来する毎日で、そこはちょっと大変でした。
杉本: LOIVEは1000人以上いる社員の99%が女性だとか。ちょっと想像がつきづらいです。
前川:そうです。スタジオが女性限定というのもあり、インストラクターも全員女性です。女性はどうしても人生の節目となるイベントで“働きたいのに環境がない”という状況に陥りやすい。都会では男性が家事や育児を手伝うという考えも“常識”になりつつありますが、誰もが恵まれた環境にあるわけではないですし、地方はなおさらです。でも環境さえきちんと整えば働いて成果を出せるということを、会社として成果を上げながら証明していきたいと考えています。
杉本:正直、耳が痛いお話です……。家庭や子育ての負担が女性に偏りがちなのは、社会全体の課題ですよね。私自身も、働く環境づくりについて改めて考えさせられます。女性が働きやすい環境づくりのために、LOIVEではどのような制度を導入しているんですか?
前川:例えば、一定以上の役職であれば、保育園の費用が全額支給されます。一般職であっても一部は支給されますし、出張に子供を連れて行ける制度も作りました。子供の分の宿泊費や交通費、現地の託児所の利用費も会社が負担します。“子供がいるから無理”と思いがちですが、LOIVEでは「どうすればできるか」を社員と一緒に考えるようにしていますね。
杉本:それはすごく手厚いし、とても寄り添った福利厚生ですね! 参考になります。
「できない理由を探さない」が合言葉
杉本:やっぱりいろいろご苦労もあると思います。大変な状況に陥ったときに大事にしている考え方やポリシーのようなものって、ありますか?
前川:どんなときも「できない理由を探さない」ようにしています。
杉本:その姿勢はすばらしいですね。経営でも人生でも、あきらめない限り負けることはありませんからね。私の場合、民事再生をしたときは人生のどん底を味わいましたが、あきらめずにいたことで再起できた。
前川:杉本さんほどのパワーはなかなか真似できないですけど、ちょっと何かがうまくいかないときって、実は気持ちの余裕をなくしているだけであることが多いと思うんです。でもいったん心を整えてできる形を探せば、ほとんどのことは動かせるはず。
杉本:ポジティブに行動することって、とても大事ですね。明るく笑っていればいいのではなく、心の中がポジティブであることが大事。例えば人の悪口を言ったりせず、明るく前向きでいると、周りにもいい影響が広がっていくし、未来も開けていくと思います。(後編へ続く)


