
古今東西、家族関係の悩みはなくならず、とりわけ嫁姑問題は時代が変わってもなお永遠だ。実際の事件を紐解くと、深い憎しみが、一線を越えてしまう悲劇が明らかに──。
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「すべてのものは毒であり、毒でないものなど存在しない。その服用量こそが毒であるか、そうでないかを決めるのだ」
これは16世紀のスイスの医師で、毒性学の父と呼ばれたパラケルススの言葉だ。
昨今、食欲抑制効果のある糖尿病治療薬を“ダイエット薬”として使用し、栄養不足になるなどトラブルが起きている。医療関係者らは「適正な使用を」と注意喚起しているが、岬景子(仮名・38才)はまた別の使い方をした。
岡山県の内陸部に位置する某市に住む景子は英男(仮名・39才)と結婚し、義父の孝(仮名・82才)と子供2人との5人で暮らしていた。
2011年4月、景子は孝にお茶を運んだ。
「景子さん、いつもありがとう」
孝にとっては“いつも通りの日常”のはずだった。湯のみを口に運びながら景子の体を舐めるように視線を動かしたが、景子はお茶をすする孝をじっと見つめているだけだった。まるで“その瞬間”が来るのをひたすら待ちわびているかのように──。
すると、孝は突然意識を失った。横たわる義父を見届けた景子は、119番通報。孝は一時心肺停止状態となり、集中治療室に搬送された。一命は取りとめたものの脳に深刻なダメージを受けた。
「搬送された病院で症状の原因を突き止めようと血液検査を実施したところ、孝さんの血液から処方されていない血糖降下剤の成分が検出され、警察に届け出ました」(全国紙社会部記者・以下同)
病院からの通報を受けた岡山県警は事件性があるとみて捜査を開始した。
「捜査の結果、孝さんは2008年3月から20回以上にわたり、低血糖の発作で入退院を繰り返していたことが判明しました。加えて景子が別の病院で糖尿病の治療を受けており、治療薬として孝さんの血液検査で検出された血糖降下剤の処方を受けていたこともわかった。
景子がお茶などに混入させた血糖降下剤を孝さんに摂取させていたとして、その年の11月、景子を殺人未遂の疑いで逮捕しました。その時点でも孝さんは意識があるものの話せない状態が続いていたそうです。
景子は“薬をのませて弱らせようと思った。だけど殺すつもりはなかった”と殺意を否認しました」
血糖降下剤は糖尿病患者ではない者が服用すれば急激に血糖値が下がり、意識障害を引き起こすリスクが上昇する。さらに高齢者だとその効果は著しいという。
義父に対する傷害罪で起訴された裁判で、裁判長は景子が3年間にわたり薬をのませ続け、義父を22回入院させた常習性を顕著とした。しかし、裁判長はこう続けた。
「義父から度重なるわいせつ行為を受けていたことがうかがわれ、義父を入院させて解決しようとした動機には同情の余地がある」
景子には懲役3年・執行猶予4年の判決が言い渡された。景子に頼るべき義母や夫がいれば違う未来があったのかもしれない。
※年齢は事件当時。
※女性セブン2025年12月11日号