ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(64歳)が、“アラ還”で感じたニュースな日々を綴る。
連載266回の今回は、茨城の実家で始めた93歳「母ちゃん」の介護について。寝たきり状態で病院を退院してきた要介護5の母ちゃんが1か月半で、外を歩けるまで回復したといいます。どんなケアをしてきたのでしょうか? オバ記者が1か月半の自宅介護を振り返ります。
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訪問看護師も「こんな人だったんだ」と目に涙
2か月間の入院中、ずっと“廃人”のようになっていた母ちゃんを看護してくれた訪問看護師のTさんが自宅にやってきた。ニコニコしている母ちゃんを見て驚いているから、写真を見せたら「やだ、泣きそう!」と、マスクから出た目をうるませている。
笑ったり、話したりしてキャラ全開の母ちゃんに、「トシエさんってこんな人だったんだね~」とも。その慈愛に満ちた目のきれいなこと!
自宅介護を始めて1か月半になるけど、母ちゃんが驚異の復活を果たすまでには、いくつかの大きな節目がある。ひとつは介護を始めて2週間で、私が深夜のトイレ移動をやめたこと。
「ヒロコ、オシッコ」
「ヒロコ、冷てー水飲みて~な~」
「ヒロコ、ご飯にすっぺよ」
冷たい水はともかく、オシッコのほうは、眠りを裂かれて数秒後に体重40kgの母ちゃんを持ち上げてポータブルトイレまで移動させる大仕事。それを一夜に3、4回。
ある夜、トイレ介助をしてオムツをつけ終え、パジャマを半分上げたところで私がギブアップした。
「母ちゃん、あとは頼む! 自分でやって」と言って、ひっくり返って見てたら、あらあら、半身回転させてパジャマのズボンをあげ、尺取り虫みたいにずりずりとベッドの上部まで体を引き上げているではないの。やれば出来るじゃん。
「ロクシタン」での全身ケア&ヘアマニキュアに笑顔
これが復活の階段、一段目だとすると、二段目はその3日後だ。畑一枚向こうの家の同じ年のN子ちゃん(93歳)が焼きおにぎりを作って持ってきてくれた。
手押し車を押しながら、「はあ(もう)、ここまで来んの、ようやぐ(やっと)だよ」というNちゃん。タイミングが合わなくて、退院した母ちゃんと話ができたのはその日の朝が初めてだ。
「うまいな~。醤油のご飯食いたいと思ってたどごなんだよ」
「人が作ったのはうまいな~」
母ちゃんの口も軽やかだ。
三段目は、東京のMマダムが送ってくれた「ロクシタン」のシャンプーとボディージェル、ボディー乳液を使って、訪問看護師さんに全身ケアをしていただいたときだ。
「フランス製だってよ。いいにおいだね〜」と言われ、「まさがな~(さすがだよね~)」と、ますますの笑顔だ。
この時、ヘアカットの上手な看護師さんに髪を切ってもらい、ヘアマニキュアでうっすらと毛染めをしたら、え? 顔がぜんぜん違うじゃない。
トイレも自力で!食事も介助不要に
母ちゃんと暮らして1か月目、夕飯に冷やし中華を作ったら、フォークを使って次々と自分の口に放り込みだした。この数日前からほぼ介助なしでご飯を食べられるようになっていた。
で、これなら私も差し向かいで食べられるかしらと、缶ビールを開けて皮付きのかつおの刺し身もテーブルに並べたら、母ちゃんの目がギロリ。「食うか?」と聞くと黙ってうなずくので、ひと切れ、口の中に押し込んであげた。
その数分後よ。母ちゃんは私の飲むビールにもギロリ。「飲むか?」「うん」でひと口コップから飲ませると、「うまい!」だって。まぁね、おいさき短いんだし、いいか。
そうしたら婆さん、私が飲んでテーブルに置いたグラスに指先の曲がった手を伸ばし、グビリグビリ。続いてかつおの刺し身にもフォークを突き刺してるではないの!
16年前、交通事故で内臓破裂して12日間の集中治療室を経て、あっという間に退院したときの快進撃から、90歳を過ぎてから数々のトラブルで「今度こそは」「いよいよ」と身を引き締めてきた。で、そのたびに復活してきたけど、寝たきりになった今回はフィナーレ、もうダメだろうと思っていた。
そうしたら何、東京暮らしをいったん閉じて覚悟の介護をしている64歳の娘とサシ飲み? いい加減、決まりつけてくれよな〜といいつつ、うれしくてたまらないのはどうしたことか。
そこからは早かった。ビール飲みの数日後、ベッド横のポータブルトイレに自力で行けるようになって、おむつに頼らなくなった。そして食事もまったく介助なしに。
ワクチン接種のため病院に戻ると「別人!」
そのタイミングで9月4日から8日までワクチン接種のため、地元の地域医療センターへ短期入院となったわけ。
病院側から見たら6〜7月の入院中、ほぼ寝たきりだった患者が8月初旬に家に帰ったら1か月で大回復。その様子は訪問看護師さんから随時、病院に報告されているのね。一度「自宅ではどんなものを食べているんですか?」と栄養士が自宅まで聞き取りに来てくれた。
そんなわけで病院ではうわさの女よ(笑い)。案の定、入院当日は何人かの看護師さんから「え? 別人!」「信じられない!」と驚かれた。こうなることを見越して、「病院ではチヤホヤされっと~」と“空気”を入れたら、「あはは」と母ちゃんは高笑い。
これでちょっとでも悪化させたら病院のコケンにかかわる?(笑い)入院中は個室の母ちゃんを医師も看護師さんも、しょっちゅう見舞ってくださったと。これは母ちゃんから聞いた。
退院のその足で母ちゃんが大好きな中華料理店の餃子と酢豚などを買って、自宅で広げたら、まあ、食べること、食べること!
そんなわけで退院してから、母ちゃんが歩けたのも、いきなりではなくて、病院に「歩行訓練をしてくださいね」とお願いした成果で、母ちゃんの気力だけじゃないと、これは太書きしておかないと!
それから凄腕ヘルパーのOさんの尽力も強烈だったわね。しかし母ちゃんはなんと多くの人の好意に恵まれたのかしら。ほんとに運のいいばあさんだ。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。
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