ライター歴43年のベテラン、オバ記者こと野原広子(64歳)が、“アラ還”で感じたニュースな日々を綴る。
連載263回の今回は、8月から茨城の実家で始めた93歳「母ちゃん」の介護について。「長丁場になる」と感じている介護生活には息抜きも必要のようです。
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「またビール飲みてえなぁ~」
「実家に帰って寝たきりの母親の介護をしている」というと、「親孝行だな~」とか、「なかなか出来ることじゃないよ」なんて言われる。まぁ、生涯こんなに人にほめられたことってあったかしら。しかも、これまで離婚だの、東京で気ままなひとり暮らしだので、「東京で何をやっているかわからない」と胡散臭い目で見ていたご近所のお年寄りたちがやってきて、「たい~したもんだな~」と手放しでほめてくれる。
そのひとり、T子ちゃん(93才)が焼きおにぎりを持って朝早くやってきた。畑一枚向こうの家で、母ちゃんが倒れる前は朝からいっしょに350ml缶のビールを分けて飲んだりしていたらしい。
「また飲みてえなぁ~」と言いながら母ちゃんは笑顔。表情をまったくなくしたサイボーグ婆さんになって退院してきたときは、こんな日が来るとは想像だにできなかったわよ。
小皿料理に目を輝かせる
母ちゃんの場合、食の制限は何もないし、好き嫌いもない。それでも退院してきたばかりのときはすぐに首を振って食べるのをやめてしまったの。それが品数を増やしてトレイに並べ、「本日の夕食でございま~す」と言って見せたら「ん?」と言って目が輝いた。それからよ、母ちゃんの食欲がめきめきと戻ってきたのは。
これまで母ちゃんが作ってきた田舎料理は一品ドーンと大盛りで、旅行でも行かない限り、小皿料理はまず食べないから新鮮だったのだと思う。今では自分でフォークを使って食べるようになったのよ。
1日3食、薬をのむために食事を作って食べさせるのは大変だけど、長いこと誰かのために毎日食事を作ったりしなかったから、けっこう楽しいのよね。ま、飽きっぽい私のこと。いつまで続くかわからないけどね。
で、私の食事はというと、あるもの、残り物でちゃちゃっと。この中で唯一、こだわって作ったのはザワークラウトよ。ざく切りしたキャベツに全体の2%量の塩を振ってビニール袋に入れて常温で放置。すると、いい感じに酸っぱくなって、ただのウインナーを劇的にうまくするの。
そして介護で肉体を酷使した一日の終わりには、缶ビールのプルトップを引く!
田舎にきてからしばらくはビールどころじゃなかったけれど、気がつくと毎日、1缶ずつ飲む小酒飲みになっていたわよ。
原稿を書いているときは「かき氷」
介護は、寝泊まりしているのは私だけど公務員の弟と妻のN美が毎日のように来て助けてくれる。それからヘルパーさんや、訪問看護士、入浴サービスの人が毎日、入れ替わり立ち替わり。
自費でお願いしている腕っこきヘルパーのOさんが来てくれる日は、原チャで町はずれの『おかきcafe』まで飛ばして原稿書き。ここのかき氷を食べるのが楽しみなの。
氷はどうやって削るのか、ふわっふわで、あずきはもちろん練乳まで手作りなの。ここのかき氷を食べるとどんなに暑い日でも深部体温が下がるのを実感できるから好き。
それから先日は幼なじみのE子が「ケーキがものすごくうまい店がある」と言って、山道を通ってとある店に連れて行ってくれた。そこで食べたブルーベリーケーキのうまさと言ったらないの。そりゃそうだよ。その日の朝採れたばかりの野生みたっぷりのブルーベリーを使って、腕のいいパティシエが作っているんだもの。
早朝ツーリングも楽しみの1つ
それからもう1つの楽しみは、早朝のツーリングね。原チャにまたがりまず向かうのは、関東平野から日光、那須連峰まで見渡せる展望スポットなの。
ここに着いたら用意してきたコーヒーをすする。
頭は空っぽ。空いっぱいの雲に映る日の光をボーっと眺めたり、ひらひら面白そうに落ちてくるすずめに目を奪われたりするのは、なんともいい気分よ。で、次のツーリングスポットは15分走っても車一台すれ違わない田畑の中の一本道。稲の匂いを胸いっぱい吸って走るの。
これからしばらく続く介護生活、何があるかわからないけれど、これぐらいの息抜きをしながらのほうが乗り切りやすいのかもね。
◆ライター・オバ記者(野原広子)
1957年生まれ、茨城県出身。体当たり取材が人気のライター。これまで、さまざまなダイエット企画にチャレンジしたほか、富士登山、AKB48なりきりや、『キングオブコント』に出場したことも。バラエティー番組『人生が変わる1分間の深イイ話』(日本テレビ系)に出演したこともある。
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