いまや、すっかり生活インフラのように定着した「LINE」。家族や友人とのやりとりには、電子メールよりもLINEを使っているという人も多いのではないでしょうか。また、普及度が高まるにつれ、ビジネスやその他の場面でも使われるように。こうなると、LINE上のやりとりであってもフランクになりすぎないよう、一定の配慮をしながら使うことが大切です。今回は、LINEを使うときに意識したいマナーを、マナーコンサルタントの西出ひろ子さんにうかがいました。
非プライベートなシーンでの利用も増えているLINE
「LINE」が、2011年6月に登場して10年あまり。アクティブユーザー数は8600万人(2021年1月時点)に上り、40代や50代でも8割以上が利用しているといいます。
新型コロナウイルス感染症が蔓延すると、全国の自治体もLINEに公式アカウントを設けて情報を発信するようになり、在宅ワークやオンライン授業が増えた分、組織内の連絡ツールとして使う企業・学校も増えているようです。
プライベートの連絡・コミュニケーション用ツールとして人気を獲得したLINEも、ビジネスやパブリックな場面で使われるようになった分、相手によってはやや気を使った対応が必要になってきます。
西出さんは「LINEには、メールに比べてカジュアルな連絡手段というポジションがあるので、せっかくなら、あまり細かいことは気にせず、楽しく使いたいところです。ただ、上司や目上の人に対してはやはり守るべき一線があります」と話します。
目上の人へのスタンプや描き文字にも配慮を
守るべき一線とは、例えばスタンプの使い方。とはいえ、スタンプを使うこと自体は、相手が誰であってもNGにはならないと西出さんはとらえています。
「スタンプってかわいらしいし、気持ちが一目で伝わるし、便利だと思います。絵文字やスタンプには確かに好き嫌いがあり、人それぞれの感覚がありますが、少なくともスタンプや絵文字の利用=礼儀知らずということにはなりません。
礼儀とは人を思いやって(振る舞いやしぐさに)表すことを言うので、相手に和んでもらいたい、テキストを読みやすくしたい、かわいいものや面白いものを分かち合いたいという気持ちで送るスタンプや絵文字が無礼に当たるはずがないですね」
コミュニケーション相手に合わせた対応を
ただし、上司や目上の人とのやりとりにスタンプを登場させるときは注意を払うほうが無難なのだといいます。
「相手のかたがスタンプや絵文字を使ってこない場合は、嫌いなのかもしれないので、こちらもそのかたとのやりとりでは利用を控えましょう。逆に、自分のほうが立場が上のケースでは、やりとりの中に意識してスタンプや絵文字を入れてみてください。相手のかたが『使っていいんだ』と思えて気が楽になるかもしれません。
自分の立場が相手より低いケースに話を戻しましょう。相手のかたが『ありがとう』というスタンプを送ってこられたとします。そのときは、こちらもスタンプをお返しするのが自然ですが、ここでスタンプだけを返すのではなく、まずはテキストでお返事するのが大人の振る舞いだと思います。
『こちらこそ、ありがとうございます』とテキストで応え、その後にスタンプを。このスタンプも描き文字が『ペコリ』『ありがとう』などではなく『ありがとうございます』となっているものを選びたいですね」
スタンプもたくさんの種類が有償、無償で提供されているので、丁寧語バージョンのスタンプも1つ2つ、ダウンロードして使えるようにしておくとよさそうです。
「既読スルー」した・されたと思わないこと
LINEといえば、「既読スルー」という語句も広く使われています。既読スルーされることを気に病む人が多いので、自分がすぐ返信できるタイミングまでアプリをあえて開かない(=「既読」をつけない)人も多いようです。
「これはちょっと本末転倒だなと感じます。LINEをコミュニケーションに使う場合、返信が欲しいのもわかりますが、LINEを連絡手段としてとらえると、返信は常に不可欠というわけではないですよね。伝えるべきことがあり、メッセージを送信し、それが受け取られた、これで完結です。返信があって当然と思うからおかしなことになります。
既読スルーという言葉そのものや、返信がこないのは自分が大事にされていないのと同義だというような考え方があまりに広まり、一つのとらえ方が絶対のようになってしまいました。ここで一度、本質に立ち返って考えたいですね。
LINEは、東日本大震災がきっかけとなり開発され、そのとき『既読』機能もつけられました。開発チームがメディアの取材に明確にそう答えています。自然災害などの被災地域の人にメッセージを送って既読がつけば、すぐに返信はできないまでも、少なくともメッセージを表示する操作は行えたということで、送信した人も安心できるわけです。
この開発側の意図を思えば、『既読スルー』という言葉自体、相手の状況への配慮が欠けた言い方だと捉えることもできると言えるのではないでしょうか。完璧な人やものごとはないと思うんです」
返信がないことを嘆かないマインド作り
まずは、返信がないことを嘆くことのないマインドを持つことが心の健康に役立つというのが、西出さんの考え方。その上で、プレビュー機能を使って、仕分けをするのも一つの手段だといいます。
プレビューから察するところ、急ぎのようなら忙しくてもメッセージを表示して対応を。例えば外出や用事の前に「この件、1時間後にお電話します!」などと書き送ると、1時間なら待っていようとなるのか、チームの別の人とやりとりするなど他の手段を考えるのか、相手の人も選択しやすいはず。また、返信が要らないタイプの連絡事項も、すぐに表示して既読をつければ、送信者は安心できます。
急ぎではないけど返信が必要もしくは個人的に返信したいと思うメッセージなどは、あえて未読のままにしておくのもアリ。あとで時間が取れたときに表示してすぐ返信するという対応で問題はないでしょう。
既読スルーが気になるならは「5W3H」を意識して最初に伝える
既読スルー問題を今すぐ回避する方法として、西出さんは「コミュニケーションの“先手必勝”スタイルを推奨したい」と話します。
「先手必勝といっても自分が相手に勝つという意味ではありません。コミュニケーションは、最初に必要な情報を提示できたら、お互いがWIN-WINの状態になれるという意味の“先手必勝”です。
LINEの既読スルーと呼ばれる問題も、そもそも返信が必要かどうか、いつまでに必要か、具体的に書いておけば問題は起きません。情報を伝達するときは5W3Hが大事だといいますよね。When(いつ)、Where(どこで)、Who(誰が)、Why(なぜ)、What(何を)、How(どのように)、How many(どのくらい)、How much(いくらで)。
いつも5W3Hを全部書く必要はありませんが、意識してみることは大事です。してほしいことがあるなら、何をいつまでにしてほしいのか、なぜしてほしいのかなど、最低限のことを先手で伝えることです。それを明示しないで、相手のアクションを黙って期待して、それが叶えられなかったといって不満に思うのは、お互いに無益だと思います。
してほしいことは率直に伝えるほうがお互いのため。なお、その際は『お手数ですが』などのクッション言葉や、『~していただいてもよろしいですか?』の依頼形で伝えると感じがいいですね。爽快に先手必勝のコミュニケーションを取ってまいりましょう!」
◆教えてくれたのは:マナーコンサルタント・西出ひろ子さん
ビジネススタイリスト・マナーコンサルタント・美道家。HIROKO MANNER Group代表、ウイズ株式会社代表取締役会長。一般社団法人 マナー教育推進協会 代表理事ほか。大妻女子大学文学部国文学科(現・日本文学科)卒業後 国会議員などの秘書を務めたのち独立。あらゆるマナーに精通するマナーコンサルタントとして、名だたる企業300社以上のマナーコンサルティングやマナー研修を行う。NHK大河ドラマ『いだてん~東京オリムピック噺~』、映画『るろうに剣心 伝説の最後編』などのマナー指導やマナー監修も務める。テレビ番組におけるマナー指導などメディア出演は800本を超える。著書は、最新刊「マナー講師の正体 マナーの本質」ほか、2003年12月以来、海外を含め95冊以上を出版している。https://www.withltd.com/
取材・文/赤坂麻実