「どうすれば幸せになれるのだろう」「老後が心配」。そんな迷える50代へのエールとなる著書『THE HOPE 50歳はどこへ消えた? 半径3メートルの幸福論』(プレジデント社)を出版した河合薫さん(56歳)。全日本空輸(ANA)のキャビンアテンダント、気象予報士を経て、東京大学大学院に進学して健康社会学者となった河合さんがたどり着いた「幸せになる思考」とは? 本人に解説していただきました。
コロナ禍で積み上げたキャリアの脆弱さに気づいた
河合さんがこの本の執筆を始めたのは2021年春頃。新型コロナウイルスが感染拡大を始めた時期だ。コロナ禍でなければこの本を出版することはなかったと語る。
「長年、懸命に走り続けていたので、そろそろフェードアウトしたいなと思っていたんです。50歳を過ぎると同級生が2拠点生活を始めたり、スローライフに舵を切りはじめ、私もそんな生活に憧れました。しかし、コロナ禍で講演会やイベントなどの仕事が消えました。仕事はよりどころに直結します。積み上げてきたはずの自分の居場所があやふやになり、不安になりました。
その一方で、いままでだって先がわからなくても目の前のことを頑張ってきたんだ、と原点に戻された自分もいました。自分の小さな可能性を信じて走っているうちに、キャリアが積み上がっていった。それなのに、これで安泰という傲慢な気持ちに陥っていたんだと気づかされました」(河合さん・以下同)
50代の“人生生き直し”を提案
時間に余裕ができたことで、人生の優先順位が見えてきた。今までのようなガムシャラな働き方をしなくても、自分らしく生きることが出来ないかと、地に足をつけて考えるようになった。
「健康社会学を通して、誰もが“幸せへの力”を持っていることがわかりました。自分の中にあるそれは、半径3メートルの人間関係や関わり方で引き出されます。自分自身の人生を振り返っても、半径3メートルの人との出会いがあったからこそキャリアを築いてこられた。ある意味この本は自分の振り返りであり、私を含めた50代の“人生生き直し”の本。あなたにも幸せになる不思議なパワーがあるんですよ、ってということを、自分の専門的な視点からエールとして送りたい」
幸せは「仕事」「家庭」「健康」のジャグリング
河合さんは「人の幸せ」を、「仕事」「家庭」「健康」の3つのボールにたとえる。
「幸せの3つのボールをジャグリングのようにバランスよく回し続けられると、幸せに働くことができ、家族との関係性もよくなり、健康にもつながる。ワークライフバランスと言われているのに、家庭のボールだけ、仕事のボールだけ上げたりして、3つのボールを見失っている人が多いと思うんですね。
子育てなどで今まで家庭のボールばかり上げていた人は、仕事にも目を向けてほしい。仕事はとても大切で、出会いや成長につながるし、人生を豊かにしてくれます。一方で、とにかく今はがむしゃらに仕事をしたい!と、家庭や健康のボールを見失うと、幸せにはなれません。気がついた時には。大切な人を失ってしまうかもしれない。健康を害して取り返しのつかないことになったりもします。
40歳をすぎると、家庭のボールの中に老いた親やパートナーの健康問題も含まれるようになります。子育ての場合は子供が成長していく喜びがありますが、親の老いていく姿を見る切なさがあるし、一つの大きな変化をきっかけに予想外の小さな変化がこれでもか!ってくらい続くので翻弄される。それでも親との時間も大切にしてほしいし、その一方で、自分の人生を生きることも忘れないでほしい。これが難しいんですけどね」
「幸せへの思考」は6つにわけられる
著書では「幸せへの思考」を6つに分けている。
「“幸せへの力”が引き出されている人たちは、主に6つの考え方を持っています。1つ目が、ちょっとダメな自分を愛おしく思うこと。2つ目は、自分が積み上げてきたスキル、人生経験、人間関係を下の世代に引き継ぐこと。3つ目は、最後は自分で決定すること。親やパートナー、仕事などに悩むと思いますが、最後は自分で決めて、その決断を信じ抜くことができるかどうか。
4つ目は、なすべきことをしているか。最近は“したいことだけをする人生にしよう”という風潮がありますが、それができるのは一部の人。だから自分が求められていることに対応することは大切です。5つ目は、不可抗力を乗り越えること。生きていれば自分ではどうにもならないことがあります。それでも、あと1日踏ん張ろうと思えるかどうか。最後の6つ目は、人を信頼すること。この6つの考え方は、一言でまとめれば“愛をケチるな”ということになります」