
10年前の子宮頸がん発症のあと、リンパ浮腫、がんの再発、再々発と、何度も病を乗り越えてきた女優の古村比呂さん(56歳)。度重なる手術や治療に苦しめられてきたにもかかわらず、語り口調は朗らか。がんとの共存の道を選んだ古村さんに、軽やかに日々を過ごすコツや、これからの夢を聞きました。
人生を悔いなく生き切るためにすべきこと
10年前に子宮頸がんが発覚してから、古村さんのライフスタイルは大きく変わった。
「交流や日々の過ごし方は、そぎ落としたものになりました。無理がきかないので、体も心も楽になるようにしています。体の変化には敏感になりました。ちょっと疲れると目が赤くなったりするので、気づいたら体を休ませる、早めに寝るようにします。すると、やれることが少なくなるので“コトの断捨離”も必要なんです。

交友関係も変化しました。飲み友達には会わなくなって、がんに関しての考えをしっかり持っている友人が増えました。今はコロナ禍で中断していますが、がんやリンパ浮腫の交流会も再開していきたいと思っています。全国各地に行って医療環境も知りたいですね」(古村さん・以下同)
先回りの心配をする時間がもったいない
子供のころから「迷惑をかけてはいけない」という言葉が引っかかっていた。がんになって改めて考えたことは「迷惑をかけないで生きるなんて無理」ということだ。
「私は周囲の人にたくさん迷惑をかけ、支えられて今があります。だから“迷惑はかけるもの”を前提に、いかに気兼ねなく迷惑をかけられるかを学びたいです。助けてほしい時には素直に伝えて、援助に心から感謝し、精一杯のお返しをする。“人様に迷惑をかけてしまうから、アレは我慢しよう”というのは違うと思うんです。一度きりの人生を、悔いなく生き切りたいです。
それに、今その瞬間を楽しむことに集中するようになりました。こうなったらどうしよう? と先回りの心配をしている時間がもったいない」

がんと付き合う3つの「あ」
笑顔を絶やさずに闘病経験を語る古村さんは、軽やかに日々を過ごすコツをいくつも体得している。
「自分に“よく頑張ったね”と労いの拍手をする、ボイストレーニングで大声を出す、泣ける映画を観て涙を流す、などでストレスを発散、心のデトックスをしています。そして今年は“1日1笑”にこだわりたい。どんな話にもオチをつけて、コロナも含めて笑い飛ばしたいですね。
それでも、どうしようもなくつらいこともあるかもしれません。そういうときには、とことん落ち込むこと。どん底まで行くと、おのずと浮上するものです。そのサインを知ることで、安心して落ち込むことができます。矛盾した言葉ですけど(笑い)」

がんの経験を生かしたエンターテインメントを作る
現在の主治医に教わったのは、がんと付き合う3つの「あ」という教訓だ。
「がんが再々発したことがわかり、もうがんとは闘わない、共に歩んでいこうと思い始めた時に、“あせらない”“あわてない”“あきらめない”と言われました。がんと診断されても、今すぐどうにかなるわけではありません。最善の解決法を、あせらず、あわてずに考える。
そしてあきらめない。これは意外だったのですが、“治療をあきらめない”ではなく、“人生をあきらめない”こと。がんになったからといって、失うことだけではありません。私も数々の出会いがありました。私は人生をあきらめず、今この瞬間を大切に生きていきます」

今後の目標は、がんサバイバーとしての経験を生かしたエンターテインメントをつくること。
「まだ具体的に構想を練れていないのですが、みんなが笑って過ごせる場を作っていきたい。仕事も、舞台を中心に活動したいです。コロナ禍で自粛ムードが広がったことで、みんなが集まって楽しめる場が必要だと感じました。この時間、この空間に来たら、泣いていいんだ、笑っていいんだと安心できる芝居を提供できるのが理想ですね。一方通行じゃなくて、リアルで共鳴し合いたいです」
◆女優・古村比呂さん

1965年11月24日生まれ。北海道出身。1985年、クラリオンガール準グランプリ、東映映画『童貞物語』にて映画デビュー。1987年、NHK朝の連続テレビ小説『チョッちゃん』のヒロインを務める。2012年に子宮頸がんが発覚し、子宮を全摘出。2017年、がんが再発して抗がん剤治療を行うが、半年後に再々発。2019年2月より、経過良好のため抗がん剤治療を中断中。今年3月、『手放す瞬間 子宮頸がん、リンパ浮腫と共に歩んだ私の10年』(KADOKAWA)を出版。5月より公開中の映画『パティシエさんとお嬢さん』に出演。https://ameblo.jp/komurahiro/
撮影/浅野剛 取材・文/小山内麗香