すらりと伸びた長い脚が印象的なミニスカート姿で一世を風靡した歌手・森高千里。デビュー35周年となった2022年は、記念ライブの開催や特別番組の放送、代表曲『私がオバさんになっても』初収録のライブ映像作品『LIVE ROCK ALIVE』(1992年ツアー) が発売されるなど、ファン垂涎のイベントが目白押しです。1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライターの田中稲さんが、50代の今なお輝き続ける森高ワールドの秘密を考察します。
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「オバサン」「ハエ」「臭いもの」「ストレス」「ミーハー」「おんち」──。いやはや並べて書くとなかなかすごい! すべて森高千里さんの楽曲のタイトルに出てくる言葉である。
普通、歌にはあまり入らない単語の数々。これを長い脚でリズムを取り、甘い声で歌う森高を初めて見たときの驚きは本当にすごかった。
不安や怒り、コンプレックスのアレコレを美しい言葉に置き換えず、そのまんま物申す。奇抜なようで、実は「本音ドストレート」で攻めてくる森高レボリューション!
『私がオバさんになっても』『ハエ男』などなど、見た目とのギャップとワードセンスに翻弄されながら、聴き終わった後は「親近感」「共感」で見事着地する。そのうち人間関係でマウントされイライラしたとき、森高が処方箋となっていった。妙な励ましの歌詞や美辞麗句がなく、逆に私以上にウンザリしている目線の曲が多いのが助かる。
『ザ・ストレス』も、ストレスを乗り切ろう的な提案は一切ない。それどころか「ケッ、かったりー」と聴こえてきそうなほど(歌詞には無いが)の愚痴っぽさ。これが、聴いていると「いやもうホントホント」と不思議と心が落ち着くのである。
『勉強の歌』で扉を開いた
『ザ・ストレス』以外にも、『ザ・ミーハー』など、お節介な輩にチクリと言い返す歌も多く、どれもリアルだ。それもそのはず、これらの歌は彼女自身の体験から出た曲なのだとか。
ロックンロールについて「ホンモノはああだこうだ」と講釈を垂れてくるオジサンに物申す『臭いものにはフタをしろ!!』は、「思ったことを口に出したらまずいけど歌詞ならいいかなって書いた曲たちです。書いた時点で『あー言えた、スッキリ!』って感じでした」とインタビューで語っている。ミニスカートを狙いカメラをローアングルで向けられときには、すぐ『のぞかないで』という曲を書いたそうだ。カーッ爽快!
こんなことを言いながら、私が『ザ・ストレス』を聴いたのは発売からかなり経ってから。1989年、超ミニスカートを揺らしながら挑発的に『17才』を歌う彼女を見て、あからさまに男性受けを狙ったアイドルと決め込んでいた。
そのため、『ザ・ストレス』も発売当時「これ、面白いよ」と友人が借してくれたのに、ジャケットのウエイトレス姿を観て「奇をてらってるなあ」と聴かずに返してしまった思い出が。嗚呼、私も「決めつけ」側だったではないか! 聴けば不思議な共感の棲む森高ワールドが広がっていたというのに! 私は1991年の『勉強の歌』で扉を開くまで、その世界を食わず嫌いしていたのであった。