
デビュー40周年。8月に個人事務所設立、ツイッターアカウント開設が大きく報じられた歌姫・中森明菜。9月21日には40周年記念全アルバムのリマスター復刻版(第2弾)が発売されます。今後の動向に注目が集まるなか、1980〜1990年代のエンタメ事情に詳しいライター田中稲さんは、デビュー以来の衣装や髪型に注目。そこにも、中森明菜が歌姫たる所以がありました。
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ベストテン初登場時は『少女A』をポニーテール姿で
今日からちょうど40年前の1982年9月16日。伝説の歌番組「ザ・ベストテン」に、中森明菜さんが初登場した日だ。
楽曲は『少女A』。ランキングは9位。ちなみにこの週の1位は、田原俊彦さんの『NINJIN娘』、2位はあみんの『待つわ』、3位は松田聖子さんの『小麦色のマーメイド』だった。ああ、いろいろ懐かしい……。
いわずもがな、『少女A』はセカンドシングルだ。デビュー曲『スローモーション』はベストテンに入らず、明菜人気が爆発してから後追いで評判になったイメージである。

ご本人は『スローモーション』のようなバラードが好きで、『少女A』がセカンドシングルに決まったときは、歌いたがらなかったというのは、もはや有名なエピソード。
しかし、腹をくくればとことんこだわる! 当時のスタッフの証言を報じた記事によると、『少女A』でポニーテールにすると提案したのは彼女自身だったそうだ。レコードジャケットの、ダウンスタイルに片耳だけ出して小首をかしげているのも可愛いが、やはり私としても、この歌はポニーテールが大勝利なのである。彼女の思う壺だ。

衣装や髪型を見るのも楽しみだった
『少女A』からはまさに快進撃、「ザ・ベストテン」や「夜のヒットスタジオ」など歌番組の常連となっていった彼女。歌はもちろん、衣装や髪型を見るのが本当に楽しみだった。
せっかくなので、当時の歌番組で見て憧れた衣装を片っ端から挙げていこう。『北ウイング』の白いつばなし帽! 斜めにちょこんと被っているのが本当にステキだった。『十戒』の黒いチュールスカートはもはや伝説。髪はあえてラフなのが、ワイルドさをプラスしていて最高。
そして、なんといっても『DESIRE』のパッツンボブと着物アレンジ衣装! これにピンヒールを合わせるセンスが神。

『Fin』の帽子もスタイリッシュかつファンタスティックだった。あのまあるく触り心地の良さそうな帽子、なんという種類の帽子なのだろう。今でも欲しい。
『TANGO NOIR』の、大きなスカートを蹴りながらステージ狭しと踊る明菜ちゃんは、金粉をまき散らしているかのようだった。個人的な思い出話を挟んで申し訳ないが、昔、一人カラオケに行き、なぜかすごく広い部屋に通されたことがあった。一瞬ひるんだが、これはもう楽しむしかないと、人前では到底歌えないこの曲を入れ「タンゴノアァァァァ!」と部屋の端から端まで踊り周りながら歌ったことがある。すごくスッキリした。
衣装に話を戻そう。『BLONDE』の、エルメスのスカーフでできたスーツも迫力だった。それをガツンと濃い目のメイクとソバージュで着こなす彼女は、もはや「明菜様」。さすがバブル真っ只中。衣装は時代を語る。
『TATTOO』は、スタイルの良さをこれでもかと見せつけられたスタイリング。スパンコールのボディコンワンピに身を包んだ彼女は、私の右太腿ほどの細さ……。そんな華奢なのに、放つオーラは全人類を威嚇できそうなほどの強度。ゴツめのマイクを操りながらパフォーマンスする姿は最高にロックだ。

多くの人が祈るように
1989年から1年ほど活動休止したが、1990年7月から復帰後も、歌声、美的センスはなんら衰えることなくバリバリに健在だった。天女のような『二人静』もよかったが、私が最もシビれたのは、ロカビリーバンドMAGICと組んだ『TOKYO ROSE』だ。宝塚チックな赤のスーツとフワッフワのマフラー、そしてショートカットが凄まじく粋! コントラバスに背中をあずけ、ゴリゴリに攻めてくる明菜さんは豹の如しである。
きっと、多くの人の青春の一ページに、いくつもの「明菜ちゃんのあの衣装好きだった!」があるのではないだろうか。歌声だけでも圧倒的なのに、衣装・メイク・振り付け・髪型まで華麗に姿を変えていた彼女は、それぞれの楽曲の世界に身を馴染ませてお忍びで旅する姫のようだった。真似をするにはハードルが高かったけれど、麗しい彼女に誘われ、画面の前にいながら遠く遠くを見ることができたし、感情が波のように揺さぶられた。
私が、歌唱とともに衣装も楽しみにしていた歌手の中に、南野陽子さんがいる。彼女が中森明菜さんに憧れていた、というのを何かの記事で知り、ああ、なるほど、と嬉しくなってしまった。
毎年暮れに放送された「ザ・ベストテンスペシャル」で、3〜4時間かかる通しリハのなか、自分の番が終わっても、ソファでずっと人の歌を聴いていたのが中森明菜さんと南野陽子さんだったという(山田修爾『ザ・ベストテン』新潮文庫より)。

感性豊かな二人は、多くの歌手の歌声やパフォーマンスに、どんなキラキラを感じていたのだろう。一緒に歌の話や衣装の話もしたのかな、と勝手に妄想しては萌えている。
デビューから40周年。中森明菜さんのステージが今年中に見られるのかは、まだ確定していない状況だ。けれど、きっと多くの人が祈るように思っているはず。
楽しみにしていいですか。ゆっくり、でもずっと待っていますから、と。
◆ライター・田中稲

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka