夫婦の間にたちはだかる高くて厚い「壁」――。特にコロナ禍によってさまざまな“夫婦の壁”が浮き彫りになったといいます。そのひとつが「言葉」をきっかけとした夫婦のトラブル。なんでもすぐ否定する夫にはどう対処すればいのでしょうか? 新刊『夫婦の壁』で、「壁」の実態とそれを乗り越える方法について解説している、脳科学コメンテイター・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんがその秘策を解説。同書の中から一部抜粋して紹介します。
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【相談】私の話にいつも否定から入る夫。「ノー」と言わせないためには?
「夫は私が何か言うと必ず否定から入ります。たとえば、『寒いね~』と言うと『そうかなぁ。別に寒くないけど』、『今晩はハンバーグでいいよね?』と言うと「いや、俺は焼き魚がいい』、『部屋に観葉植物が欲しいわ』と言うと『邪魔だから要らない』といった具合です。いつも否定されるので話しかけるのも面倒だし、大事な相談も否定から入るので話が進みません。夫にノーと言わせないためには、どうしたらよいのでしょうか」(53 歳・パート)
【回答】人生のマナーが1つ、欠けている
このケース、夫に、「人生のマナー」が1つ、欠けてますね。家族が平常心あるいはポジティブな気持ちで言ったことは、とりあえず「いいね」か「わかる」で受ける、という家族の法則。きっと、彼の母親が、これができなかった人なのではないでしょうか。
「寒いね~」には、「そうだね。今日は昨日より風が冷たいね」みたいに言えばいい。あなたが寒いかどうかなんて、この際、誰も気にしちゃいないのに、自分の意見を正しく言おうとする夫。もはや、笑える。もしも、どうしても寒くないことを妻に主張したいのなら、「僕は感じないけど……大丈夫? 風邪ひいてない?」か、心配してあげればいいのに。
また、妻としては、「ハンバーグでいいよね」というのは質問じゃなくて、共感や喜びの表明を期待したことば。「お、ハンバーグ! 今日はおろしポン酢にしようよ」とか「いいね! ちょうど食べたかったんだ」とか、ポジティブな反応が返ってくれば、心も通い合い、買い物や料理のストレスも半減するというもの。
夫たるもの、それでも焼き魚がよかったら、「いいね。きみのハンバーグおいしいし。けど、今日は焼き魚が食べたいなぁ」と言えばいい。相手の気持ちをありがたく受け止めたらこちらの思いも無邪気に口にしていいのです。女性は、「気持ち」さえ快く受け止めてもらえたら、案外結果は気にしないものだから。
男性相手では「一推し提案」は危険
実は、問題解決型の脳は、「対案比較」で結論を出そうとする癖があります。ハンバーグと言われたら、つい対案を頭に浮かべてしまう。ビジネス提案で男性上司に「一番の推し」だけを提案すると、脳が別案をひねり出して、比較検討しようとします。男性相手では「一推し提案」は危険なのです。ビジネス提案では、“やや劣って見える”別案をつけて、比較検討させるのが賢い手なのです。
というわけで、夫に「ハンバーグでいいよね」と言うと、二重の間違いが起こります。そもそも質問じゃないし、別案もないのに、夫は本能的に対案を見つけてしまうから。
最初から、「今日はハンバーグよ!」と、嬉し気に告げればいいんです。こう宣言されると、よっぽど嫌じゃない限り、肯定してくれる。男性から見たら、質問されたから「焼き魚がいい」と答えたのに、「ハンバーグじゃダメなわけ?」と不機嫌になられて「???」状態。
男たちはよく、「女って、答えが決まっているのに質問してくるでしょう? あれって何?」と私に質問してきます。「あ~、それ質問じゃなくて、『いいね』って、背中を押してもらいたいんです」と答えてあげます。男たちの多くは、「女の質問は、ときに質問じゃない」のがわかってない! 「なんでやらないの!?」とか「あなたってどうしてそうなの!」というセリフに、「いや、それがすごく忙しくてさ~」なんて、本当に「なんで」や「どうして」への回答をしてくる男がけっこういるのでびっくりしてしまう。もちろんこれは、ひたすら謝るのが正解(読者の皆さんは、言わなくてもわかるとは思うけど)。