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夫はなぜ妻に「ご飯どうする?」と言ってはいけないのか

「ご飯どうする?」は妻にとってストレスに(Ph/GettyImages)
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夫婦の間にたちはだかる高くて厚い「壁」――。特にコロナ禍によってさまざまな“夫婦の壁”が浮き彫りになったといいます。そのひとつが「在宅」による夫婦のトラブル。夫の「ご飯どうする?」という何気ないひと言は妻に大きなストレスを与えているそうです。新刊『夫婦の壁』で、「壁」の実態とそれを乗り越える方法について解説している、脳科学コメンテイター・人工知能(AI)研究者の黒川伊保子さんが、「ご飯どうする?」と言ってはいけない理由を解説。同書の中から一部抜粋して紹介します。

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【相談】夫に「ご飯どうする?」と言われるのが本当にストレスです

「夫は、朝ご飯を食べている最中に『お昼どうする?』と聞いてくるなど、常に次の食事の話をしてきます。以前は我慢していましたが、コロナ禍でリモートワークになってから1日3食を一緒に食べるようになったので、『次は何食べる?』と聞かれると、1日中、食事のことばかり考えてしまいものすごくストレスを感じます。どうしたらよいのでしょうか」(51歳・主婦)

【回答】妻に、食事の3時間以上前に、メニューを聞いてはいけない

朝ご飯が終わってすぐ、お昼ご飯の話をするのが耐えられない……このお悩みは、これまでは定年夫婦によくありがちだったのですが、リモートワークが増えた今、多くの妻が抱える悩みかもしれませんね。

「お昼どうする?」――これって、女性脳にとって、本当につらいことばなんです。男性脳の想像をはるかに超える多大なストレスです。

たとえば、お昼はチャーハンにするとしましょう。女性は、お昼の15分前に「チャーハ
ンにしよう」と決めれば、ハムとレタスでもあればそれでチャチャッと作ることができます。ところが、朝の時点で「お昼はチャーハン」となったら、3時間以上にわたって、ずっとチャーハンのことが頭の隅にあります。洗濯機を回しながら「そうだ、冷凍のえびを解凍しておこう」と思いついてキッチンに出向き、階段を上がりながら「卵、足りるかな」などと考えてしまうのが、段取り上手な女性脳だからです。

脳の一部に常に常駐しているので、「お昼のことを3時間考えている」ことになり、とても高コストな思考になってしまいます。つらすぎます。

「ずっと考えなくていい」仕組みを作る

それを「シンキングコスト」といいますが、女性は食事に関するシンキングコストがとにかく高く、脳にとっては相当なストレス。そんなことを毎日やられたら、たまったものではありません!

そもそも、経験が増えるにつれ、女性脳は「あれこれ気づくこと」が増え、夫に言われなくても「あれ、やらなくちゃ」「これ、やっとかなきゃ」が「1日でこなせる量」を超えていきます。それこそが、主婦の最大の生活ストレスなのです。

女性にとって必要なのは、思いついたことを「ずっとは考えないようにすること」。イタリアには、「明日できることを今日するな」ということわざがあります。まさにその通り。「あれ、やらなきゃ」と思いついても、それをずっと脳においておかずに、メモして忘れるようにしましょう。私は、「あとでやるリスト」を作って、自分にメールして、すべて忘れるように努力しています。

家族からの要望も、メールやLINEを使って入れておいてもらえれば、楽になります。家族がいつ入力しても、自分が見たいときに見ればいいので、シンキングコストが無駄に高くなりません。息子夫婦と同居している我が家では、家族のグループLINEを作って、皆で書き込むようにしています。主婦からの連絡事項や要望も、思いつく度に口にしていれば、家族のストレスになります。「キッチンスケールは、奥の棚に移したよ」とか「〇〇、買ってあるからね」のようなことは、LINEに書き込んでおしまい。口で伝えると、めんどくさそうにしていた息子たちも、LINEなら「おっけ~」と軽やかな返事が返ってきます。

電子媒体が苦手なら、伝言ボードを置いたり、ふせん紙に書いて冷蔵庫に貼るようにしてはどうでしょうか。「ふと思いついた用事」は、伝言板を使う。これは、家族の日常ストレスを軽減して、円満に生きていく大きなコツと言えるかもしれません。

会話している男女
女性脳と男性脳に大きな違いが(Ph/GettyImages)
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臨機応変な女性脳と定番が大好きな男性脳の違い

女性は臨機応変な生き物だから、食べたいものもその日の気温や湿度、体調などでも変わります。ところが、男性はカレー、生姜焼きなど決まったものを好む人が多いと思いませんか?

それは、男性脳にとっては定番が安心できるから。古代から狩りをしてきた男性の脳は、遠くから飛んでくるものに瞬時に照準が合うように脳と眼球を制御していて、身の回りを定番で固めているほうが遠くに意識を集中できます。定番が少しでも変わると大きな事故につながる可能性もあるため、男性は無意識に定番を求めてしまいます。

義父は、昼は「蕎麦」と決めていましたが、男性がずっと同じ床屋に通うのも、同じ飲み屋に通うのも、定番が安心だからなのです。それを逆手にとって、食事のメニューも「金曜日は生姜焼き、土曜日はカレー」などと決めてしまっては?

すでに決まっていれば、夫に「次、何食べる?」と聞かれても、「金曜日はカレーの日よ」と考えずに答えられます。メニューを考える手間も省けるし、定番が大好きな男性にとっては安心感にもつながるので、週に何度かは定番メニューの日を決めてしまうと楽になりますよ。

◆著者:人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子

人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子
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1959年長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、”世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。著書に『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)『思春期のトリセツ』(小学館)『60歳のトリセツ』(扶桑社)など多数。

 

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