のどかな田舎町でも大都会の片隅でも、たくましく生きる野良猫たち。決められた縄張りの中で、仲間の猫たちと連携を取りながら暮らしている彼らは、野生ということもあり、ときに過酷な日々を送っています。人口密度の高い都心の繁華街は、危険もきっと多いはずですが…2020年代の今、SNSでとある1匹の野良猫「たにゃ」にスポットが当たりました。2023年8月には、フォトエッセイ『歌舞伎町の野良猫「たにゃ」と僕』(扶桑社)が発売されたほどです。
日本一の歓楽街・歌舞伎町が出会いの場
たにゃが縄張りとしていたのは、新宿・歌舞伎町。「夜の街」「眠らない街」と呼ばれる日本一の歓楽街で、数多くの飲食店が軒を連ねています。インバウンドがすっかり回復した最近は、観光客の姿も多く見られる名所ですね。ただ、コロナ禍に入ってからしばらくは人通りが一気に減り、閑散。活気に溢れた歌舞伎町は、鳴りを潜めてしまいました。
前出のフォトブック著者でもある「たにゃパパ」さんも、歌舞伎町で20年ほど商売をしていたひとりでしたが、コロナ禍のあおりを受けて売り上げは一気にガタ落ち。一時期は身も心もボロボロになってしまったそうですが…そんなとき出会ったのが、たにゃでした。
以来、朝と晩にご飯をあげにいくのがたにゃパパさんの日常に。出会ってから1年半ほど経った2022年9月には、正式な手続きを踏んで、たにゃパパさんが保護しました。野良猫だった頃、記録をするために開設したSNSは、現在約2万人のフォロワーが。フォトブックは発売から2日で重版がかかったほど人気となっています。
過酷な日々を支え合い、乗り越えたふたり
そんなフォトブックは、たにゃのこれまでが丁寧にたどれる内容となっています。
歌舞伎町で暮らしていた頃のたにゃの“庭”は、駐車場。たにゃパパは、ここでたにゃにご飯をあげたりしていたようです。あるときは、日向ぼっこエリアを掃除し、寝やすいように藁を敷いてあげたこともあるのだとか。警戒心が強いはずの野良猫・たにゃも、ちゃんと藁の上で寝転んでいたというから、ふたりの結びつきの強さを感じます。
一緒に暮らすようになってからは、持ち前のワイルドさのなかに愛嬌もチラリ。ご飯が待ち遠しくてケージ越しにジーッと見つめる写真もその一つ。たにゃパパさんはキッチンで支度をしながらこの視線を感じていたのでしょうね。また、日当たりの良い場所ですやすやと寝息を立てる写真は、毛色の白さも相まってまるで天使のような神々しさです。
過酷だった毎日をお互いに支え合って乗り越えた、たにゃとたにゃパパ。“命”に対する責任感や、一緒に暮らす覚悟も感じられる一冊です。