エンタメ・韓流

名優・吉永小百合だからこそ表現できる“恋する女性像” 少女のような軽快さと歳を重ねてきた人間の重みが同居

“そこに生きる人々”

普段あまり映画を観ないかたにとってこの作品は、少し変わった作りのものに感じるかもしれません。主人公は福江でありながら、つねに息子の昭夫の視点で物語が進行していくからです。

『こんにちは、母さん』場面写真
(C)2023「こんにちは、母さん」製作委員会
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でもだからこそ浮かび上がってくる主題というものがあります。なぜなら、福江の自分自身の気持ちを大切にする姿を目の当たりにした昭夫が、やがて彼もまた自分に正直になっていくから。本来であれば、いくつになっても、誰であっても、自由に生きる権利があります。

ここでふと思い出すのが、吉永さんが終戦の年に生まれた人だということ。彼女が成人する頃には時代は大きく変わっていたわけですが、彼女の親の世代はそうではない。自由に生きる権利はなかったのではないでしょうか。

山田監督は絶えず“そこに生きる人々”の姿を描いてきました。この映画の主人公である福江という人物と吉永さんを重ね合わせたとき、物語の舞台となっている東京・下町にあまた存在した人々の営みにまで思いを馳せることができるのです。

◆文筆家・折田侑駿

文筆家・折田侑駿さん
文筆家・折田侑駿さん
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1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。https://twitter.com/yshun

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