
2023年5月8日にコロナが5類感染症に移行され、それまでためらわれていた実家への帰省や旅行が事実上“解禁”に。この夏、久しぶりの実家で息を抜いた人もいれば、義実家への帰省や親戚づきあいの煩わしさを再確認した人もいるでしょう。今回は後者のタイプに向けて、今後の「義実家の壁」をどう乗り越えるか、8月に上梓した新著『夫婦の壁』が話題を集める人工知能研究者の黒川伊保子さんにアドバイスをもらいました。
コロナ禍の3年間は「義実家づきあい問題」から解放
妻にとって夫の実家に顔を出すこと、ましてや数日間泊まりに行くことは、気の重いイベント。夫の実家は、自分が育った家ではなく、あくまでも他人の家。相手からも気を使われるし、こちらも嫁として落ち度がないようにと並々ならぬプレッシャーがかかり、ストレスを感じます。
こうしたプレッシャーから解放されたのが、コロナ禍の3年間だったわけですが…。
「振り返ればコロナ禍では、『感染すると大変だから』という大義名分のもと、義実家に行かずに済んだし、親戚づきあいや冠婚葬祭も簡略化できた人も多かった。ある意味、本当に気が楽でしたよね。
ところが、コロナが明けた今年の夏、3年ぶりに“実家帰省”の禁が解け、『久しぶりに孫の顔が見たい』と呼ばれたら行かざるを得なくなった。そしてまた面倒なづきあいが再開。正直、もう3年前と同じようにふるまうのは難しい…。そう感じている人も多いようです」

今こそ、義実家や親戚づきあいの見直しの時期
この先も秋のお彼岸や七五三、そして年末年始等々、義実家に顔を出す行事は続きます。
「今こそ、今後の義実家や親せきとのつきあいをどう再構築するか、話し合うときです」と黒川さん。誰と何をどう話すか。詳しく教えてもらいました。
ケース【1】親戚づきあいが重い→タイミングや滞在時間を調整
まずは親戚づきあいについて。
「案外この3年間、訪れる側だけでなく、迎える側もおもてなしの負担から解放されて楽だった可能性もあります。盆や正月、一気に大勢の親戚が押し寄せたらおもてなしが大変ですから。
そこで帰省を再開するにあたり、例えば義実家の長男など“おもてなしをする側”に、お互いにとってもっとも負担が少ない方法を相談するのです。『お義姉さん、私たち帰るのを少しずらした方がいいですか?』、『どのタイミングで、どれくらい滞在したらいいですか?』などと。義理の家族に直接聞くのがはばかられるなら、夫を通すのもいいですね」
集まりの規模を縮小化する方法も
また、会合自体を簡略化する方向へ話を持っていくのも一つの方法です。
「地域によっては、七五三の食事会に、いとこや甥、姪といった親戚まで招待して大々的に祝うところがあるそうです。
そうした大々的な集まり形式を復活させるか、それともコロナ禍のように規模を縮小したり、集まる行事自体を減らしたりするか、話し合ってみては。お葬式も、遠縁なのに手伝いに行くというコロナ前の風習から脱して、『コロナはまだ油断はできない状況なので、引き続き家族だけで行います』と宣言するのもいいですね。
コロナ禍3年間の簡略化した親戚づきあいも、5年経てば習慣になり、10年続いたら固定化していくでしょう」
簡略化したいなら、今こそチャンス。このタイミングで話し合わなければ、気疲れするイベントが未来永劫続くかもしれないのです。
ケース【2】義実家が重い→パートナーだけ帰省
ただし、ここで立ちはだかるのが「夫婦の壁」。夫婦が同じ目線を持っているとは限りません。黒川さんはこう話します。
「夫婦は得てして話がかみ合わないもの。感性が真逆といってもいいくらい。なぜなら、感性が全く違う二人がつがうことで、より豊かな遺伝子の組み合わせを残せるから」
ゆえに、夫に「あなたの実家に行くのは気が重い」と相談したところで、「1年のうち、たった2~3日泊まるぐらい、いいじゃないか」などと取り合ってもらえない可能性も。
「その場合、自分は用事がある、体調が悪いなどの理由をつけて、夫だけ自分の実家に帰ってもらうようにするのが一番です」

夫婦で帰省する場合、実家の親にくぎを刺しておいてもらう
あるいは、夫にあらかじめ、配慮してもらいたいことを具体的に伝える手も。
「自分にとっては気の置けない実家でも、パートナーにとっては遠慮が多いのが義実家だということを言葉にして伝えるのです。そのうえで、お互いのために過度な気遣いは不要だ、と姑に伝えてらうのもよいでしょう。
私自身は姑の立場ですが、たまにお嫁さんに会うと、話しかけ過ぎてしまうんです。『疲れたでしょ。コーヒー入れようか?』『あ、お菓子もあるわよ』『他にも何か食べたいものある? 後で一緒に買い物行かない?』などとのべつ幕無しに。そうすると、お嫁さんも息が抜けないみたいで(苦笑)。こういう姑がいる場合は、『疲れているから、夕飯までは自室でゆっくりさせて。おしゃべりは夕飯の楽しみにしよう』と夫の方から言ってもらうよう、根回しをしておくといいですね」
また、食の好みにおいてもあらかじめ伝えておくと吉。
「細かいことですが、連れて行くパートナーの苦手な食材も、一覧表にしてLINEで伝えておいた方がのちのため。苦手な食材が出てきたとき、『これ、本当においしいのよ、食べて』とすすめられているのを断るのは勇気が要ります。相手をおもんばかって無理して食べて、ますます義実家への足が遠のいてしまう方が、お互いにつらいですよね」
いずれも妻目線の話ですが、妻と夫、立場が逆転しても同じこと。うまく立ち振る舞って「実家の壁」を低くするか、行事を簡略化して「壁」の数を減らし、夫婦ともに心穏やかに過ごしたいものです。
◆教えてくれたのは:人工知能研究者、脳科学コメンテイター・黒川伊保子さん

1959年長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、”世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。著書に『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)『思春期のトリセツ』(小学館)『60歳のトリセツ』(扶桑社)など多数。
取材・文/桜田容子 撮影/浅野剛