松岡茉優(28歳)さんと窪田正孝さん(35歳)が主演を務めた映画『愛にイナズマ』が10月27日より公開中です。『舟を編む』(2013年)や『町田くんの世界』(2019年)などの石井裕也監督の最新作である本作は、理不尽な社会の“いま”に対する切実な想いがこれでもかと溢れているもの。主演の2人をはじめとする豪華俳優陣の力を得て、強いメッセージ性を持った作品に仕上がっています。本作の見どころや松岡さんの演技について、映画や演劇に詳しいライターの折田侑駿さんが解説します。
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松岡茉優×窪田正孝×石井裕也監督
『愛にイナズマ』は、『川の底からこんにちは』(2009年)や『舟を編む』が国内外で高く評価され、精力的に映画作品を手がける石井裕也監督のオリジナル最新作です。
石井監督といえば、『生きちゃった』(2020年)や『茜色に焼かれる』(2021年)、『アジアの天使』(2021年)、10月13日から公開中の『月』など、近年はとくに現代社会に翻弄される市井の人々を描いてきました。
そんな彼の最新作では松岡さんと窪田さんが初共演を果たし、コロナ禍の現代を舞台とした物語を展開していきます。理不尽な社会に打ちのめされた男女が、離ればなれになっていた家族の力を借りて反撃を試みる作品なのです。
傷ついた男女が家族とともに社会に反撃
物語の舞台は、コロナ禍がやってきた日本。折村花⼦(松岡)はずっと夢見ていた映画監督デビューのチャンスを目の前にしています。
苦しい生活に耐え、彼女の価値観を否定する助監督のセクハラをどうにかかわし、あともう少し。そんな折、花子は初めて入ったバーで不思議な魅力を持つ青年・舘正夫(窪⽥)と出会います。空気は読めないものの、彼が発する言葉はいつも真っ直ぐです。
人生が上向きはじめたかもしれない――そう思った矢先、プロデューサーに騙された花子はすべてを失ってしまいます。それはまるで、この社会の誰のことも信じられないような状況です。
そんな彼女に正夫は真っ直ぐ、問いかけます。このままでいいのかと。
花子は10年以上も疎遠だった家族を集め、自分にしか生み出すことのできない映画を撮ろうと彼らにカメラを向けます。理不尽な社会に対して、反撃に出るのです。
石井組常連の存在も頼もしい演技合戦が展開
主演の2人が石井監督の作品に参加するのは、これがはじめてです。けれどもさすがは日本のエンタメ界の中枢を担う2人。手練れの俳優陣とともに、見事な演技合戦を展開させています。
主演の1人である窪田さんといえば、今年は銭湯を舞台にした『湯道』、最強のボクサーを演じた『春に散る』、とある家族が怪奇現象に見舞われる『スイート・マイホーム』などの出演作が公開されました。この3作品を並べただけでも彼のキャリアの豊かさや、俳優としての幅の広さが分かることでしょう。
そんな窪田さんが今作で演じるのは、空気は読めないものの、その言動に嘘がない青年・舘正夫。周囲の俳優との掛け合いにおいて独自のリズムを貫く演技を展開させ、どこか浮世離れしたところのある人物像を窪田さんは作り上げています。松岡さん演じる花子が惹かれるように、それは私たち観客にとっても魅力的に映るに違いないでしょう。
花子の呼びかけによって再会する折村家の長男・誠一を演じているのは、池松壮亮さんです。誠一は合理的で、口だけはうまい。主演作『夜空はいつでも最高密度の青色だ』(2017年)をはじめ、いくつもの石井監督作品を支えてきた彼が、今作でも重要な役どころを担っています。
折村家の次男・雄二を演じているのは、『生きちゃった』での好演も記憶に新しい若葉竜也さん。雄二は誠一とは対照的で、抱えた想いを口にはせずに飲み込み、ストレスを溜め込んでいる人物です。その一挙一動からは“現代人のリアル”が垣間見えます。
そして折村家の父・治を演じるのは、佐藤浩一さん。厳格な態度で一家を締める……かと思いきや、妻に愛想を尽かされ出て行かれた、どうにも頼りない人物です。父親として子どもたちの前で本音を隠し、どっちつかずの態度を取るところなどがとても人間くさい。佐藤さんを中心とした演技の掛け合いは、「これぞ演技合戦!」と言いたくなるものになっています。
さらに、仲野太賀さん、趣里さん、高良健吾さん、MEGUMIさん、三浦貴大さん、鶴見辰吾さん、北村有起哉さん、益岡徹さんらがそれぞれ折村家を囲む重要な役どころに。
この座組を窪田さんと率い、演技合戦をリードしてみせているのが松岡茉優さんなのです。