
年を重ねて、薄毛に悩む女性は少なくありません。薄毛の悩みから解放され、いくつになっても自信をもって過ごすことができるように、セルフケアを実践してみてはいかがでしょうか。そこで、薄毛対策のためのシャンプーの選び方や薄毛対策に有効な食材、漢方薬について薬剤師の山形ゆかりさんに教えてもらいました。
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女性の薄毛タイプと原因
薄毛には以下の4つのタイプがあります。タイプによって予防方法も変わってくるので、まずは自分がどのタイプかチェックし、原因になっていることがないか振り返ってみましょう。
・瀰漫(びまん)性脱毛症
瀰漫(性脱毛症は、つむじや地肌が透けて見える、分け目が目立つなど、全体的に髪が薄くなるのが特徴。女性ホルモンの分泌が不安定になったり減少したりすることや、ストレス、自律神経の乱れなどが原因です。
更年期以降は、髪を成長させる働きのある女性ホルモンの「エストロゲン」は乱れを伴いながら徐々に減少し、閉経後にはほとんど分泌されません。そのため、更年期以降に瀰漫性脱毛症に悩む女性も多いのです。
また、女性ホルモンが乱れたり、強いストレスを受けたりすることで、自律神経も乱れます。体のさまざまな器官をコントロールする自律神経は交感神経と副交感神経からなり、このバランスが崩れると、髪に栄養を運ぶための血流が悪くなって毛周期(毛の生え変わるサイクル)が乱れます。こうして、新しい髪の毛の成長や生え変わりがスムーズにいかなくなることも、薄毛につながります。

・脂漏(しろう)性脱毛症
脂漏性脱毛症は頭皮にベタつきやフケが発生し、全体的に薄くなるのが特徴で、皮脂の過剰分泌による脂漏性皮膚炎などが原因です。
ファストフードや菓子類などの高脂質食品やアルコールといった皮脂を過剰分泌させる恐れのある食品の摂取、また、過度な洗髪などによって必要以上に皮脂が分泌され、皮膚の常在菌のバランスが崩れることが脂漏性皮膚炎の原因です。これがベタつきやフケなどの頭皮トラブルを起こすと、毛根へもダメージを与え、脱毛の原因にもなります。
・粃糠(ひこう)性脱毛症
粃糠性脱毛症は、頭皮の乾燥などが原因で細かいフケやかゆみ、赤い炎症が発生し、髪は全体的に薄くなるのが特徴です。
過度な洗髪や洗浄力が強すぎるシャンプーの使用は頭皮を乾燥させ、細かいフケを発生させます。すると、そのフケが毛穴を塞いだり、皮膚の常在菌が繁殖する原因になったりして炎症が起こり、毛根へのダメージとなり、脱毛につながります。

・牽引(けんいん)性脱毛症
牽引性脱毛症は、分け目や生え際などが部分的に薄くなるのが特徴で、毛根に負担のかかるヘアアレンジなどが原因です。髪の毛をきつく引っ張って結んでいたり、同じ場所で分け目を作っていたりすると、その部分の毛根がダメージを受けやすくなり、脱毛します。
そのため、きつく引っ張りすぎないヘアスタイルにする、定期的に分け目を変えるなどして対処しましょう。
女性の薄毛の予防方法
薄毛を予防するには、自律神経を整えることや頭皮ケアをすることが大切です。具体的にはどんなことをするべきなのか、女性の薄毛の予防方法を紹介します。
ストレッチで自律神経を整える
女性の更年期は閉経に向けて女性ホルモンが乱れやすく、それに伴い自律神経のバランスも崩しやすい年代です。瀰漫性脱毛症の予防には、自律神経を整えることがポイントになります。
自律神経の「交感神経」が優位になりすぎると、血管の収縮作用によって血流が悪くなり、毛根に栄養が行き届かなくなってしまいます。そのため、血管を拡張し血流を促進する作用のある「副交感神経」を優位にするような生活習慣を心がけましょう。

そこで、心身をリラックスさせて血圧や心拍数を下げ、副交感神経を優位にする効果が期待できる「静的ストレッチ」の「胸反らし」を、就寝前に心地よいと感じる強度で3回程度実践してみましょう。
就寝前に行うことで副交感神経が優位になり、入眠をスムーズにする効果が期待できます。睡眠不足も自律神経を崩す原因となるため、スムーズな入眠も薄毛予防には大切です。
<胸反らしのやり方>
【1】いすに浅く腰をかける。
【2】床と平行になるように両腕を横に開き、ひじが90度になるように上に曲げる。
【3】そのままゆっくり背もたれの方へ上体を反らし、30秒間キープする。
【4】最初の位置へ上体を戻す。
頭皮ケアに重要なシャンプー選び
頭皮の状態を健康に保つには、頭皮に優しいシャンプーを選ぶことも大切です。
シャンプーに使用される洗浄成分はさまざまですが、「ココイルグルタミン酸Na」や「ラウロイルメチルアラニンNa」は、比較的頭皮に優しい洗浄成分とされています。
シャンプーの成分表は配合量順に表示されているので、最初の方に記載されている成分が、先述したような低刺激なものであるかどうかに着目するとよいでしょう。

なお、市販のシャンプーには、泡立ちをよくし、洗髪後の爽快感を得やすくする「ラウレス硫酸Na」や「ラウリル硫酸Na」という洗浄成分が使われているものも多いです。しかし、これらは洗浄力が非常に強いため、頭皮には刺激が強すぎる可能性があります。頭皮の状態が気になるときには、このような成分が多く使われているシャンプーは避けた方がよいでしょう。
女性の薄毛対策には「鉄分」と「たんぱく質」が有効
毛根に栄養を運ぶために血流を促進しても、酸素を運ぶための「ヘモグロビン」が不足すると頭皮は酸欠状態となり、薄毛につながる可能性があります。そのため、薄毛対策には、ヘモグロビンの合成に必要な「鉄分」と「たんぱく質」を摂取しましょう。
とくに更年期の女性は女性ホルモンの乱れの影響で、月経期間が8日以上続いたり、頻回な月経・経血量の増加などを引き起こしたりする場合があり、「鉄欠乏性貧血」に悩まされる人も少なくありません。
そのため、鉄分を摂るときにはより吸収率が高い「ヘム鉄」が多く含まれる食材を選ぶのがよいです。豚や鶏のレバーなどにヘム鉄が多く含まれるので、例えば主菜に「レバニラ炒め」、植物性たんぱく質が豊富な「納豆」の小鉢を副菜として組み合わせるとよいでしょう。

また、鉄分やたんぱく質の吸収率を高める作用がある「ビタミンC」を含むキャベツの汁物を添えた献立にすると、効果アップが期待できます。
女性の薄毛には漢方薬も役立つ
頭皮ケアや食事で薄毛が改善しない場合は、薄毛の専門機関を受診したり、体質改善を得意とする漢方薬を服用したりするのも有効です。
漢方薬を試す場合は、「女性ホルモンや自律神経を整える」「血流をよくして頭皮や髪を作る細胞に栄養を届ける」作用のある生薬を含むものを選ぶとよいでしょう。

おすすめの漢方薬
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
血(栄養)を補いエネルギーの流れをよくすることで、女性ホルモンや自律神経を整える作用のある漢方薬です。更年期女性によくみられる、気分の落ち込みやイライラなどの精神的な症状のほか、ホットフラッシュの改善にも役立ちます。
・十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)
血流をよくして、頭皮や髪に栄養を届ける作用のある漢方薬です。疲れやすく、貧血気味の人に向いています。
漢方薬を始める際の注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれた人:薬剤師・山形ゆかりさん

やまがた・ゆかり。薬剤師、薬膳アドバイザー、フードコーディネーター。病院薬剤師として在勤中、食養生の大切さに気付き薬膳の道へ。牛角・吉野家ほか薬膳レストラン等15社以上のメニュー開発にも携わる。「健康は食から」をモットーに健康・美容情報を発信する「Medical Health -メディヘル-youtubeチャンネル」(@medicalhealth–7900)で簡単薬膳レシピ動画を公開するなど精力的に活動している。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でも薬剤師としてサポートを行う。