健康・医療

60代から急増する「変形性膝関節症」のメカニズムと治療法 「切らないで治す」4つの方法をひざ関節専門の医師が解説

整形外科医の巽一郎さん
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人生100年時代を迎え、多くの人がひざの痛みや歩行のトラブルを抱えています。60代から急に増える「変形性膝関節症」という病気は代表例といえるでしょう。加齢とともにひざの軟骨はすり減り、歩くときに痛みが出たり、歩けなくなったりと健康寿命に大きく影響します。この病気のメカニズムと治療法とは? ひざ関節を専門とする整形外科医の巽一郎さんの著書『痛みが消えてずっと歩ける 100年ひざ』(サンマーク出版)から一部抜粋、再構成して紹介します。【前後編の前編】

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「ひざ痛」が認知症の原因に?

「変形性膝関節症」はとても身近な病気で、病院にかかるなどはしていない人も含め、「70代女性の約7割が変形性膝関節症である」という調査結果もあるほど。とくに女性が要介護状態になる原因は、この病気と腰痛、それから認知症がとても多いです。

この病気の原因を簡単にいえば、ひざの負担を大きくしている生活習慣があり、軟骨のメンテナンスも不十分。そこに老化が加わることで、ひざの軟骨が加速度をつけてなくなってしまうケースがほとんど──ということです。

僕は1960年、関西生まれの63歳。令和2年5月に、神奈川県にある湘南鎌倉総合病院から、愛知県一宮市の一宮西病院人工関節センターに診療場所を移しました。僕の母親がレビー小体型認知症になったからです。木曽川の豊かな自然のある一宮市で母を復活させられたらとの思いで、大好きな湘南を離れました。

湘南で診察していたころも、そして今も、外来には日本全国はもとより、海外からも患者さんが来られています。愛知県というのは日本の地図でいうとほぼ真ん中なので、一宮西病院に移ってからは、「鎌倉は遠かったけど、今度は近くなった」と喜んでくれる患者さんも少なくありません。

「初診」の患者に必ず話すこと

一宮西病院では、外来に来られた初診の方と、一緒に来院されたご家族に、約1時間の「初診ひざの話」をします。

医者と患者
一宮西病院で「初診」の患者に必ず話すこととは(Ph/PhotoAC)
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ひざが悪くなる原因やレントゲンの見方について話し、そして手術をしないでひざを治す「保存療法」と「手術」について、両者それぞれのメリット・デメリットをお話しして、患者さんが自分で判断できるようにします。それがむずかしい方でも、一緒に来られたご家族と本人が相談して、治療法を選択できる状況をつくります。

その「初診ひざの話」の中でお伝えしていることは、まず「手術をしないでひざ痛を治す4つの方法」。そしてもう一つ、「対症療法をやめて、根本療法をしましょう」ということです。

このお話を聴いていただいたあと、簡単な質問を受けてから個別の診察に入ります。 個別の診察では、その患者さんがひざの痛みを起こした一番大きな原因に焦点を当てます。そしてそれを乗り越える方法をいくつか提案させていただきます。

手術をするかどうかはそのときには決めず、3か月後に「宿題」をやっていただいてから、再診外来の予約をしてもらいます。

「宿題」に取り組む過程で、初診時の痛みが半分以下になった方はたいてい、もう3か月がんばり、ひざ痛とさよならします。痛みが1割も減らなかった人は、その原因を一緒に考えます。そこでもう一度保存療法に取り組むか、手術をするかを決めていただきます。これは、湘南の病院にいた当時と同じ治療方針ですが、現在も、北海道、東北、関東か ら、新潟、関西、四国、九州から、患者さん方は杖をついて、あるいは車イスに乗って来られます。

ここ最近では「初診ひざの話」を聴いて保存療法に取り組んだ約60%の患者さんが3〜6か月で痛みから卒業されています。手術を決める人は再診患者さんの5〜10%。30%の人は、3か月後の再診の際に、「もう少しがんばってきます」と、次の再診予約をして、再度保存療法へ戻られます。

僕が提案している保存療法は、「4つの切らない方法」と「対症療法をやめること」だけ。