
「寝ても寝ても眠い」「食欲が止まらない」このような悩みの原因は季節性うつ病のひとつである「冬季うつ病」かもしれません。そこで、その症状と原因、対処方法や季節性うつ病に有効な食事や漢方薬について、薬剤師の山形ゆかりさんに教えてもらいました。
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冬季うつ病の症状
秋から冬に起こる季節性うつ病は過眠・過食・体重の増加や気分の落ち込み、イライラ、倦怠感などがあらわれます。しかし、春ごろには回復する傾向にあるのが特徴です。
なお、一般的なうつ病は不眠や食欲不振、体重の減少など、冬季うつ病とは反対の症状が見られます。
日照時間の変化が冬季うつ病の原因
冬季の季節性うつ病の発症には、日照時間が関わっていると考えられています。
秋から冬にかけては日照時間が減少することで、体内時計が狂ったり、睡眠・食欲・精神の安定に関わる「セロトニン」の分泌量が減少したりします。その影響で、過眠・過食・気分の落ち込みといった症状があらわれることがあるのです。
また、セロトニンの分泌を促進させる女性ホルモンの「エストロゲン」は、加齢とともに減少するため、更年期以降の女性はとくに影響を受けやすいといえます。

なお、更年期障害でも気分の落ち込みや過眠・過食などが起こることがあり、冬季うつ病と症状が類似します。専門家以外では見分けることが難しく治療方法も異なるため、気になる症状がある場合は、心療内科や婦人科を受診しましょう。
冬季うつ病予防のカギは体内時計とセロトニン
日照時間が減少する秋から冬に、体内時計を整えたり、セロトニンの分泌が促進される行動を意識したりすることが、冬季うつ病を予防するカギです。
体内時計を整える
体内時計は、脳にある「中枢時計」と筋肉や臓器などにある「末梢時計」の2つがあり、約25時間サイクルで活動しています。1日24時間サイクルとは1時間の誤差があるため、体内時計を整えるにはリセットする必要があるのです。
中枢時計のリセットには、朝日を浴びることが有効なので、起床後は雨戸やカーテンを開けて、朝日をしっかりと部屋に取り入れてください。

一方、末梢時計のリセットには食事や運動が関わっており、朝食のタイミングを意識することでリセットすることができます。朝食の時間を前日の夕食から10時間以上空け、かつ、起床から2時間以内にすることで、ホルモンや消化酵素などが分泌されて腸が動きだし、末梢時計をリセットすることができるとされています。
セロトニンの分泌促進
セロトニンの分泌を促進するには、日中に2500ルクス(照度)以上の光を1日に30分以上浴びる必要があります。
たとえば、晴天時の屋外は約10万ルクス、曇天時の屋外は約1万ルクス、雨天時の屋外は約2500〜5000ルクス、晴天時の屋内(東南向き)は約1000〜2500ルクスです。
一方、人工的な光では、オフィス照明は約500〜1000ルクス、住宅照明は約300〜500ルクスのため、セロトニンの分泌を促進するには照度が足りません。
そのため、屋外で自然の光を浴びるのが理想的です。屋外に出るのが難しい場合は、太陽光が差し込む部屋で、日光浴を30分以上するとよいでしょう。

冬季の季節性うつ病予防に有効な食材
冬季の季節性うつ病予防につながる、体内時計(末梢時計)を整えるには、朝食の時間を意識することに加えて「炭水化物」と「たんぱく質」を摂るのがよいとされています。
炭水化物(ブドウ糖)を摂ったときに分泌される「インスリン」は、体内時計をリセットするシグナルとなるのです。そのため、朝は炭水化物を摂ることが推奨されます。
また、たんぱく質に含まれるアミノ酸に、体内時計をリセットする働きのあるホルモンを分泌する作用があることも報告されています(保健指導リソースガイド「「時間栄養学」の新たな発見 食事のタンパク質が「体内時計」を調整」https://tokuteikenshin-hokensidou.jp/news/2018/007099.php)。
そこで、体内時計をリセットする効果があるとされる「DHA」や「EPA」が含まれるツナ、「セロトニン」の材料となる「トリプトファン」が含まれている卵、これらを炭水化物と組み合わせた「ツナサンド」と「たまごサンド」を朝食に食べるのがおすすめです。

また、トリプトファンからセロトニンを合成するには、「ビタミンB6」が欠かせません。そのため、ビタミンB6を多く含むバナナチップスを加えたヨーグルトなども添えるとよいでしょう。
季節性うつ病には漢方薬も役立つ
日照時間の変化の影響で体内時計が狂ったり、セロトニンが減少したりすると、からだのさまざまな器官のコントロールや精神の安定に関わる「自律神経」のバランスも乱れがちになります。すると、イライラや不安などの精神症状があらわれやすくなるのです。
そのような場合には、「自律神経のバランスを整える」「精神を安定させる」「興奮やイライラを抑える」 などの働きのある生薬を含む漢方薬も有効です。

おすすめの漢方薬
・加味逍遙散(かみしょうようさん)
自律神経を整えることで精神を安定させ、イライラや神経症に働きかける漢方薬です。更年期障害や、月経不順など婦人科系の多様な不調にも用いられます。
・抑肝散(よくかんさん)
興奮やイライラなどの神経の高ぶりを抑え、精神症状に働きかける漢方薬です。ストレスによって起こる心身の症状や、更年期障害などにも用いられます。
漢方薬を始める際の注意点
漢方薬は食事の工夫などでは不調が改善しなかった人でも、効果を感じる場合が多くあります。
ただし、漢方薬はその人の体質に合っていないと、よい効果が見込めないだけでなく、副作用が起こることもあります。自分に合う漢方薬を見つけるために、服用の際は漢方に詳しい医師や薬剤師に相談するのが安心です。
◆教えてくれた人:薬剤師・山形ゆかりさん

やまがた・ゆかり。薬剤師、薬膳アドバイザー、フードコーディネーター。病院薬剤師として在勤中、食養生の大切さに気付き薬膳の道へ。牛角・吉野家ほか薬膳レストラン等15社以上のメニュー開発にも携わる。「健康は食から」をモットーに健康・美容情報を発信する「Medical Health -メディヘル-youtubeチャンネル」(@medicalhealth–7900)で簡単薬膳レシピ動画を公開するなど精力的に活動している。症状・体質に合ったパーソナルな漢方をスマホ一つで相談、症状緩和と根本改善を目指すオンラインAI漢方「あんしん漢方」(https://www.kamposupport.com/anshin1.0/lp/)でも薬剤師としてサポートを行う。