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薄井シンシアさんが考える家族観 金を無心する弟とは全財産を渡して縁を切った「家族でもプラスにならない人は切ってもいい」

薄井シンシアさん
薄井シンシアさんが考える家族観とは?
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フィリピン出身の薄井シンシアさん(64歳)は日本に留学後に就職し、外交官の日本人男性と結婚。結婚後は夫の海外赴任に帯同して17年間の専業主婦生活を送りました。子育てが終わった47歳のときに再就職。転職を繰り返して、現在は外資系企業の正社員として働いています。58歳のときに夫と離婚しました。日本人の「嫁」となったシンシアさんは、義父母やフィリピンの実家と、どのような関係を築いてきたのでしょうか。その家族観に迫りました。

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義父母への贈り物は家族のマナー

義理の父母には海外赴任中も、父の日や母の日の贈り物を送っていました。私は、やることはきちんとやります。だって「自由=何もやらない」ということではないでしょ?

義父母は嫁をいじめる人たちではないし、私たちが海外赴任中に一時帰国するときは、住む場所を用意してくれたし、娘にお小遣いもくれました。なぜ母の日のプレゼントを贈らないの? これは家族に対するマナーですよ。私は物事をはっきりと言う性格で、義母が私をどう思っていたのかはわからないけれど、私たちのためにいろいろと世話をしてくれるから、お礼をするのは当たり前だと思っていました。

薄井シンシアさん
義父母への贈り物は家族のマナー
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義理の両親宅には、一時帰国の時に2〜3週間泊めてもらっていました。私が掃除や料理をきちんとするので、義理の家族は緊張していたかもしれません。家を出るときは、布団をきれいに丸めて布団袋に入れ、部屋を元通りに整えました。

元夫と離婚後も、ニューヨークから娘が一時帰国するときには「ちゃんと、おばあちゃんの家に行ってね」と声をかけていました。現在は義父母が他界して義姉だけなので、「お姉さんたちのお土産を忘れずにね」と言います。だって大人でしょ? お互いに守らなくてはいけないことは、やりましょうよ。

でももし、それが苦なら関係を切ればいい。関係が切れずに愚痴を言い続けることが私には一番耐えられません。他人の愚痴を聞くのも嫌です。

弟には全財産を渡して縁を切った

実の弟とは30年以上連絡を取っていません。住む場所も、何をしているのかも知りません。マニラに住む母とは定期的に連絡をするし、毎年、お金も送金しています。

とても保守的で威張っていた父親は20年ほど前に他界しました。彼が死ぬ間際に親戚から「フィリピンに帰ったほうがいい。会わないと一生後悔するよ」と言われたけれど、私は帰りませんでした。

海外赴任中は、実家の両親にもプレゼントを送っていましたよ。でも、こういうことは「足りない」と感じる人もいます。そういう人には、いくらあげても「足りない」と言われるので、すべて無視しました。自分の人生なんだからプラスにならないことしか言わない人は、どんどん切ればいい。

薄井シンシアさん
プラスにならないことしか言わない人は、どんどん切ればいい
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弟は、私が日本で一生懸命働いていたときに「お金を送ってくれ」と連絡をしてきました。仕方がないので、私は「はい、これが私の全財産。今後は私に連絡を取らないで」と1回だけお金を渡して弟と縁を切りました。寂しさはありません。

弟からは、そのあとも「お金を貸してくれないか?」と電話がありました。母が私の連絡先を弟に教えたそうです。そのときは弟に「あのとき、あれだけのお金を渡したから、これ以上の義務はないよね。ごめん。もう、あなたと話すことは何もありません」と言って電話を切りました。そして母に「もし、また弟に私の連絡先を伝えたら、あなたとの縁も切るからね。本気だよ」と伝えました。

もし弟が救えるなら救います。でも、彼の人格は変わらないから、そのあとも、私の足を引っ張り続けるだけでしょ? それなら、さっさと縁を切った方がいい。当時、全財産を渡したので罪悪感もありません。

こういうことは無限ではありません。限界に達したら、すべてを切る。私は今の家族や自分が大事なのでまったく後悔はありません。もちろん、とっさに決めるのではなく、熟慮した上での行動です。

「誰でも親だから耐えていることってあるじゃない?」

もし、マニラの母が「会いたい」と言えば会いに行くかもしれません。でも私を育てたからと言って、私の人生までダメにする権利はない。だから「母親が好きですか?」と問われると、よくわかりません。

薄井シンシア
誰でも、親だから耐えていることってある
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誰でも、親だから耐えていることってあるじゃない? 母の場合は電話をすると、その大半が愚痴や小言です。母は電話のたびに「あなたが再婚できるように神様に祈ってる」「孫は妊娠したかしら?」と、私たちの意思に関係なく、自分の考えを押し付けます。

私はそういう話を聞くだけで苦痛だけど、母の性格は変わらない。だから義務的に「元気ですか? 変わりないですか? はい、わかりました。さようなら」と話して終わり。愚痴や小言が始まったときは「申し訳ないけど、その話は聞きたくないからやめてもらえる?」「不愉快になる話はしないでね。したら電話を切るよ」と宣言します。それでも母が話を止めなければ電話を切ります。

子どもが離れた人は、自分がアップデートをしていないから

私は足を引っ張られたり、気分が悪くなることを言われるのが嫌いです。そういう環境から自分を遠ざけたい。もし私が母のことを娘に愚痴れば、娘も疲れるでしょ? だから電話を切ります。

私は絶対にそういう母親になりたくありません。いつまでも娘に魅力的な存在でいたい。そのために、私は一生アップデートし続けて、娘の考えに寄り添うように努めます。自分の価値観を子どもに押し付けては絶対にダメですよ。「子供が離れていっちゃった」「手が離れた」と嘆く人は、自分自身がアップデートをしていないのだと思います。

娘は「しばらくママと話していないから、ちょっと電話しよう」と電話をかけてきます。たぶん、私と話してもウザくないのだと思います。もし私が娘に、彼女が10歳のときのような態度で接したら、すぐにウザイと思われるでしょうね。

◆薄井シンシアさん

薄井シンシアさん
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1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社し、イベントマネジャーとして活躍中。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia

撮影/小山志麻 構成/藤森かもめ

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