「誰でも親だから耐えていることってあるじゃない?」
もし、マニラの母が「会いたい」と言えば会いに行くかもしれません。でも私を育てたからと言って、私の人生までダメにする権利はない。だから「母親が好きですか?」と問われると、よくわかりません。

誰でも、親だから耐えていることってあるじゃない? 母の場合は電話をすると、その大半が愚痴や小言です。母は電話のたびに「あなたが再婚できるように神様に祈ってる」「孫は妊娠したかしら?」と、私たちの意思に関係なく、自分の考えを押し付けます。
私はそういう話を聞くだけで苦痛だけど、母の性格は変わらない。だから義務的に「元気ですか? 変わりないですか? はい、わかりました。さようなら」と話して終わり。愚痴や小言が始まったときは「申し訳ないけど、その話は聞きたくないからやめてもらえる?」「不愉快になる話はしないでね。したら電話を切るよ」と宣言します。それでも母が話を止めなければ電話を切ります。
子どもが離れた人は、自分がアップデートをしていないから
私は足を引っ張られたり、気分が悪くなることを言われるのが嫌いです。そういう環境から自分を遠ざけたい。もし私が母のことを娘に愚痴れば、娘も疲れるでしょ? だから電話を切ります。
私は絶対にそういう母親になりたくありません。いつまでも娘に魅力的な存在でいたい。そのために、私は一生アップデートし続けて、娘の考えに寄り添うように努めます。自分の価値観を子どもに押し付けては絶対にダメですよ。「子供が離れていっちゃった」「手が離れた」と嘆く人は、自分自身がアップデートをしていないのだと思います。
娘は「しばらくママと話していないから、ちょっと電話しよう」と電話をかけてきます。たぶん、私と話してもウザくないのだと思います。もし私が娘に、彼女が10歳のときのような態度で接したら、すぐにウザイと思われるでしょうね。
◆薄井シンシアさん

1959年、フィリピンの華僑の家に生まれる。結婚後、30歳で出産し、専業主婦に。47歳で再就職。娘が通う高校のカフェテリアで仕事を始め、日本に帰国後は、時給1300円の電話受付の仕事を経てANAインターコンチネンタルホテル東京に入社。3年で営業開発担当副支配人になり、シャングリ・ラ 東京に転職。2018年、日本コカ・コーラに入社し、オリンピックホスピタリティー担当に就任するも五輪延期により失職。2021年5月から2022年7月までLOF Hotel Management 日本法人社長を務める。2022年11月、外資系IT企業に入社し、イベントマネジャーとして活躍中。近著に『人生は、もっと、自分で決めていい』(日経BP)。@UsuiCynthia
撮影/小山志麻 構成/藤森かもめ
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