
44組の出場歌手の決定以降、徐々に企画の発表が伝えられるNHK紅白歌合戦。そうしたなか、大晦日は毎年欠かさず歌番組を楽しむというライターの田中稲さんが注目するのは、「テレビ放送70年」を記念した特別企画。まだ詳細は不明ながら、ひと足先に歌謡ライターの予想と妄想による「名曲対決」をお届けします。
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12月ももう半ば。さすが師匠が走ると書いて「師走」と読む月である。一日一日がむちゃくちゃ早い! ああ、右を向いて左を向いているうちに、2023年は終わる……。
一年の締めは楽しく華やかに、歌を聴いて過ごしたい。ということで31日の楽しみは、紅白歌合戦をはじめとした歌番組、そして大量のミカンと鍋とビールである。

紅白には「新たなジャンルの扉を開ける」サプライズもある
紅白歌合戦は今年、大きく様変わりするだろう。その変化が気になるのはもちろんだが、ただただ、楽しみで、チェックしておきたいアーティストも多い。エレファントカシマシ、なにを歌うのだろう、ワクワク。映画『ラーゲリより愛を込めて』の主題歌『Soranji』で大感動したMrs. GREEN APPLEと、『オトナブルー』で惹かれた新しい学校のリーダーズの初出場も嬉しい(歌唱曲はまだわからないが)! 新しい学校のリーダーズはトップバッターと予想しておこう。白組最年長者ながら、驚くほど若々しい郷ひろみさんも楽しみだ。トップバッターが多いけれど、彼のトリを観てみたいなとも思う。

40代ごろからだろうか、出場歌手一覧に、知らないアーティストの名前もどんどん増えてきた。しかしこれも悪くない。紅白で「知らない歌手だけどチャンネルを変えるのも面倒だしまあ聴くか」くらいのテンションで聴いたら、心をガツンと殴られたという経験も幾度となくあったからだ。
あまりアニメを観ない私が、紅白で、T.M.Revolutionとのコラボで出場した水樹奈々さんの歌声を聴き、体に電流が走るような感動を覚えた。米津玄師さんの『Lemon』は衝撃過ぎて、ボカロの印象まで変わった。

年末に訪れる、新たなジャンルの扉を開けるサプライズ。今年もあるのだろうか。今から待ち遠しくて仕方がない。

紅白で聴きたい名曲対決を妄想
また今年の紅白はもうひとつ、テレビ放送70年を記念した特別企画「テレビが届けた名曲たち」を行うことが発表された。ゲストには黒柳徹子さんを迎えるという。70年間の時代を彩った名曲の数々が聴ける! これは心躍る企画である。
私はこの企画でピックアップされるだろう名曲を予測し、それで紅白の対戦カードを作りたくなってしまった。無謀な気がするが、走り出した心は止まらない。
真っ先に浮かんだのは、前向き対決、『365歩のマーチ』(水前寺清子)対『上を向いて歩こう』(坂本九)、そして宇宙対決、『瑠璃色の地球』(松田聖子)対『昴』(谷村新司)。我ながら神カードではないか。

個人的にシャガレ美声が好きなので、もんた&ブラザーズ『ダンシング・オールナイト』と藤圭子さん『圭子の夢は夜ひらく』という“夜”対決は決まり。シャガレ美声ならもう一枠、『襟裳岬』(森進一)と『舟歌』(八代亜紀)もいい。

美空ひばりさんと石原裕次郎さん、山口百恵さんと沢田研二さん、というカリスマ対決もぜひ入れたいが、この2組はヒット曲が多く、楽曲のチョイスが難しい。ひばりvs裕次郎は『悲しき口笛』と『嵐を呼ぶ男』。百恵vsジュリーは『プレイバックpart2』と『勝手にしやがれ』でどうだろう。

子ども曲対決は『だんご3兄弟』と『おどるポンポコリン』、声量対決は松崎しげるさんの『愛のメモリー』と小柳ゆきさんの『愛情』、さらにはTM NETWORKの『Get Wild』と渡辺美里の『My Revolution』という、昭和の楽曲とは思えないロングヒット対決も個人的に外せない!

大トリにピッタリ対決は、北島三郎さんの『まつり』vs島倉千代子さんの『人生いろいろ』以外には考えられない。どれだけ歌自慢だらけの主張強めなカラオケ大会でも、この2曲を入れれば、「縁もたけなわではございますが」ときれいに締まる。しかも明るく終わることができる二大名曲である。

海援隊と植村花菜の「家族の思い出」対決も
そのほかにも、『君は薔薇より美しい』(布施明)vs『聖母たちのララバイ』(岩崎宏美)=歌唱力対決、『夜明けのスキャット』(由紀さおり)vs『北の国から』(さだまさし)=スキャット対決、『落陽』(吉田拓郎)vs 『ファイト!』(中島みゆき)=魂が揺さぶられる対決、『母に捧げるバラード』(海援隊)vs『トイレの神様』(植村花菜)=家族の思い出対決……このあたりも我ながらなかなかよく練れた対戦カードとほくそ笑む。

しかし、山本リンダさんの配置がどうしても決まらない。彼女の『どうにもとまらない』は情熱対決として、西城秀樹さんの『傷だらけのローラ』と当てるのが一番しっくりくるのか。いや、西城秀樹さんのメガヒットといえば、やはり『YOUNG MAN (Y.M.C.A.)』。この曲なら、対戦はピンク・レディーの楽曲にするべきか——。

ゴフッ……。勝手に妄想歌合戦を決め始めたはいいが、あまりにも難しく、胸やけがしてきた。
気が付けば午前2時。目の前にいくつも転がるビールの缶。ノートに、判別できないほどオロオロ書き散らかした歌手名と曲名。
妄想だけでも、こんなにプレッシャーがかかるとは。日本代表を選ぶ、ポジションを決めるって、本当に大変だ。紅白はもちろん、今年のWBCで見事優勝した侍ジャパンの栗山監督にまで、リスペクトが飛び火した。
私は静かにノートを閉じた。紅白歌合戦にまつわる妄想は中断したが、心に漂うのは不思議な爽快感と嬉しさ。
日本には名曲が多い、多すぎる。困るほどに!
◆ライター・田中稲

1969年生まれ。昭和歌謡・ドラマ、アイドル、世代研究を中心に執筆している。著書に『昭和歌謡 出る単 1008語』(誠文堂新光社)、『そろそろ日本の全世代についてまとめておこうか。』(青月社)がある。大阪の編集プロダクション・オフィステイクオーに所属し、『刑事ドラマ・ミステリーがよくわかる警察入門』(実業之日本社)など多数に執筆参加。他、ネットメディアへの寄稿多数。現在、CREA WEBで「勝手に再ブーム」を連載中。https://twitter.com/ine_tanaka
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